アーティストとひらく
横浜美術館の「アーティストとひらく」は、新進アーティストと一緒に、これからの美術、これからの美術館の可能性について考え、試行錯誤をする場として実施される年1回のプログラムです。第2回となる2026年度はアーティストの鎌田友介を招いて開催いたします。
1. 横浜出身のアーティスト、鎌田友介が独自の視点で原三溪について調査
鎌田友介(1984年生まれ)は、国内外の日本家屋をリサーチし、そのトランスナショナルな歴史や背景を独自の視点で読み解く作品群を発表してきました。今回は、美術・建築・都市計画を横断しながら、横浜本牧にある三溪園の創設者であり、横浜/横浜美術館とゆかりの深い実業家の原三溪に焦点を当てます。
2. 横浜、岐阜、ソウルでの調査を経て、新作インスタレーション作品を発表
2024年12月から行ってきた横浜、岐阜、ソウルでの調査を経て、ローカルとグローバルの間を生きた原三溪の想像力の多面性を、新作インスタレーションで浮かび上がらせます。
鎌田友介はこれまで、韓国、台湾、アメリカ、ブラジルなど日本国内外に建てられた日本家屋について調査し、社会や文化の複雑さを浮かびあがらせる建築的なインスタレーションを発表してきました。横浜で生まれ育った鎌田にとって、こうした活動の背景には、10代だったときに市内の本牧三之谷にある三溪園の日本建築群に魅了された過去があると振りかえります。
近年、鎌田はこうした原点に立ち返るように、三溪園の創設者であり、近代日本画家の支援者でもあった実業家の原富太郎(号:三溪、1868-1939)についての調査を行ってきました。三溪は岐阜から上京後に教鞭をとっていた跡見女学校(現・跡見学園)で原善三郎の孫娘である屋寿(やす)と出会い婿入りし、原家の生糸業を国内有数の企業へと成長させます。祖父と叔父が南画家であったことから、幼いころから書画や漢詩に親しみ、もともとは画家や学者を志していました。関東大震災後には横浜の復興に尽力し美術支援を自粛する一方、自らの制作を活発に行っています。また三溪が多角的な経営を進めた原合名会社には地所部があり、本牧での宅地開発や、三溪自身は一度も訪れたことのなかった朝鮮・京城(現ソウル)で農林・宅地開発事業を行っていました。鎌田は、三溪の書画家・美術支援者として研ぎ澄まされた空間感覚と、都市開発における空間的な視座のあいだに共通する想像力があるのではないか、と考えるようになります。
横浜美術館にとって岡倉天心とも繋がりのあった三溪の存在は大きく、コレクション収集方針のひとつの柱となっているほか、2019年には「横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」を開催しています。今回のプログラムにおいて、鎌田は、横浜美術館の知的な蓄積やコレクションを活用してこの調査をさらに深めます。そしてローカルとグローバルの間を生きた三溪の想像力の多面性を浮かびあがらせるインスタレーション作品を個展形式で発表いたします。
三溪の支援を受けていた日本画家のひとりである今村紫紅の画業を振り返る「没後110年 日本画の革命児 今村紫紅」展と同時開催となるこの展覧会は、コレクション展と連動するかたちで、コレクション展の一室(ギャラリー4)で開催します。
横浜美術館では、将来活躍が期待される若手アーティストを紹介する小企画展「New Artist Picks(通称NAP)」を2007年から2023年まで継続して開催してきました。
「アーティストとひらく」は、このプログラムを引き継ぐもので、新進アーティストと一緒に、これからの美術、これからの美術館の可能性について考え、試行錯誤をする場として実施される年1回のプログラムです。
リニューアル後の横浜美術館は、「多様性」をキーワードのひとつに掲げ、それに対する横浜ならではの応答を目指して、再出発しました。このプログラムは、この理念に基づき、新進アーティストとコレクション作品のコラボレーションや、横浜のグローバル/ローカルな歴史の探求などを行うプログラムとして、2025年から始まりました。
19世紀から現在に至る国内外の多様な作品を主なコレクションとする当館の特色を生かし、アーティストと美術館の協働を通して、既存の文脈や歴史にとらわれない視点、今という時代に向き合うアーティストの思想や価値観を発信していきます。