横浜開港150周年記念・横浜美術館開館20周年記念展
―美をめぐる100年のドラマ
19世紀フランス絵画は、ダヴィッドにより新古典主義が確立され、ドラクロワを旗手としてロマン主義が台頭し、クールベのレアリスム宣言に続いて、モネやルノワールたちによる印象派が誕生する、というように、これまで前衛的な画家たちの足跡が中心となり、語られてきた。しかし、19世紀のフランス絵画は、こうしたモダニスムの直線的な流れのみでは語りつくせない、多様な側面を持っている。なぜなら、当時画壇で主流を占めていたのは、伝統を遵守するアカデミスムの画家たちであったからである。長らく前衛の敵役に甘んじてきたアカデミスムの絵画を再評価し、19世紀のフランス絵画史を見直そうとする動きが、1980年代以降活発化してきた。本展では、これまで日本で紹介される機会が少なかった、フランス・アカデミスムの画家たちに光を当てる。
まず、アカデミスムの基盤となる新古典主義の美学が、ダヴィッド、アングルらによって確立され、それがいかに継承され、いかなる変容と開花を遂げていったのかを、ほぼ三世代にわたる画家たちの代表作により明らかにし、フランス・アカデミスム絵画を総括的に紹介する。さらに、アカデミスム自体が時代とともに変質していく19世紀は、ロマン主義、レアリスム、印象主義などの新たな時代を牽引していく動向が台頭した。それらの革新的な動きと、保守的な立場を貫いたアカデミスムは、時に密接に連動し、時に対立を繰り返しながら、互いに変貌を遂げていった。
本展では、アカデミスムの代表作によってその魅力を伝えるとともに、モダニスムの画家たちの作品と並置することによって、ふたつの流れが織りなすダイナミックな展開に着目する。それらは、互いに浸透しあい、反駁しあいながら、豊穣な19世紀フランス絵画の世界を織り上げている。フランスを中心とするアメリカ、スペイン、日本の約40の美術館から珠玉のコレクション約80点を集めて構成した本展は、フランス・アカデミスムに真正面から取り組むことで、19世紀のフランス絵画の流れを新たな視点から捉え直そうとする試みである。
2009年は、横浜開港150周年の記念すべき年に当たる。また、横浜美術館は今年、開館20周年を迎える。当館はこれまで、19世紀以降の美術の流れを中心に紹介してきた。開館20周年記念展として開催する本展は、モダニスムの源泉となるフランス絵画の19世紀を顧みる、またとない機会となる。
展覧会図録
『「フランス絵画の19世紀」展』 日本経済新聞社、2009年