近代日本画において際立つ革新性を示す今村紫紅(明治13-大正5)と、歴史画に新生面を開き、優美な画風を築いた安田靫彦(明治17-昭和53)は、横浜出身の岡倉天心が創設した日本美術院の画家で、横山大観、下村観山等に次ぐ第二世代を代表している。横浜美術館では平成2年に開催した『大観と観山』展に続く日本画展として、天心の薫陶を直接受けた最後の世代であり、また横浜の大事業家三渓・原富太郎の支援に浴した二人の画家、紫紅と靫彦を取り上げる。
明治33年、靫彦を中心とした絵画研究会「紫紅会」(後の「紅児会」)に偶然紫紅が加わり、二人の親交が始まる。紫紅は、歴史画における主題の選択や描法に革新をもたらし、やがて風景画に新境地を開くが、大正5年、35歳で急逝する。一方、病弱であった靫彦は、古典研究に専心し、近代感覚を盛り込んだ新たな歴史画や、凛とした画品をたたえる静物画を生み出し、明快で馥郁たる香りを放つ画風を完成して、94年の長寿を全うした。
本展は、紫紅と靫彦をめぐる出会いと別れを縦軸とし、二人の画業展開を横軸として、四章で構成される。多くの代表作を含む122点の作品を通して、二人の画家が近代日本画にもたらした成果を紹介しようとするものである。
展覧会図録
『「紫紅と靫彦」展』 横浜美術館、1995年