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横浜美術館コレクション展 2014年度 第2期

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小林清親《隅田川夜》1881年 加藤栄一氏寄贈

展覧会概要

抽象画―戦後から現代
光と影―都市との対話

横浜美術館コレクション展2014年度第2期は、二つのテーマで展示します。

一つは、「抽象画―戦後から現代」。横浜美術館は、2014年4月現在、約1万点以上の美術品や資料を収蔵しています。その中から、日本の戦後から現代に至る抽象画を辿ります。山口長男(やまぐちたけお)、斎藤義重(さいとうよししげ)、元永定正(もとながさだまさ)、白髪一雄(しらがかずお)、嶋田しづ、佐野ぬいから、辰野登恵子(たつのとえこ)、中村一美(なかむらかずみ)など1950年代生まれの画家達まで、多彩な作品で戦後日本美術における抽象画の一端をご覧いただきます。

もう一つは、「光と影―都市との対話」。同時期開催のホイッスラー展に因み、光と影をとりあげました。特に都市景観や都市生活において、光や影を敏感に捉えた作品や見る者に光の在り方を意識させる作品をコレクションの中からご紹介します。
近代以降の都市には、太陽光や月光などの自然光やそれまでの灯籠や提灯に代わって、ガス灯から電燈へと、新たな人工的光源が登場し、従来にない夜の街の賑わいを生み出し、また人々は利便性の高い交通機関や街の恩恵に浴しています。都市は、震災や戦火によってまたたくまに解体し、また新たな再生を繰り返し発展しました。光と影を併せ持ち、風貌を変える都市のエネルギーと哀感は、美術家たちを触発し、多くの作品の題材となってきました。幕末に西洋画を学んで画面に明るい光を採り入れた高橋由一《愛宕山より品川沖を望む》、文明開化が生み出した都市景観を光と影によって効果的に捉えた小林清親(こばやしきよちか)の版画や、清水登之(しみずとし)《ヨコハマ・ナイト》から奈良美智《春少女》まで、多彩な表現をお楽しみいただきます。
また、写真展示室においては、現代の都市における光と影を強烈に映し出した写真家たち、金村修(かねむらおさむ)、磯田智子、米田知子ほか、を展示いたします。あわせてご覧ください。

みどころ

  1. 近年、世界的にも注目を集める戦後日本の抽象画家を中心に、戦前から戦後にかけ活躍した日本の抽象画家たちを、横浜美術館のコレクションによりご覧いただけます。
  2. 「光や影」にまつわる作品を、版画、西洋画、現代美術に至るまで横浜美術館が所蔵する幅広いジャンルの作品でご紹介します。
  3. 写真展示室では、都市における光と影を映し出した現代の写真家たち、4作家62作品を展示いたします。

■コレクション展 2014年度第2期 出品リスト [732KB]    

■コレクション展2014年度第2期 紹介映像 
(本映像は、横浜美術館との大学連携事業において、 城西国際大学メディア学部が制作いたしました)


展示構成

1、抽象画―戦後から現代
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斎藤義重《クレーン》1967年

今期のコレクション展ではまず、戦後日本美術における抽象画の一端を振り返ります。

大正期の新興美術運動を通して、構成主義やダダイズムなどに触れ、戦前から前衛的な制作活動をしていた作家の一人に斎藤義重がいます。斎藤は、戦後、平面や立体の区別を拒否し、作品の在り方自体を問う作品を示し、後進の作家たちにも影響を与えました。斎藤と同世代の山口長男も、単純化した色面で、日本の抽象画における先駆的な仕事を成した作家の一人です。

戦後1950年代に、フランスを中心にヨーロッパでは、それまでの抽象における構成的な手法を脱して、非幾何学的で非定形たることを特徴とする「アンフォルメル運動」が盛り上がりました。フランスでこの運動に参加した堂本尚郎(どうもとひさお)や今井俊満(いまいとしみつ)を始め、日本の画家たちにも影響を与えました。元永定正は、流動感ある絵具のたらし込みを特色とする作品を制作し、元永とも活動を共にした白髪一雄は、肉体の行為が持つエネルギーを直接作品にぶつけた表現で、評価されました。
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左:嶋田しづ 《旋回するリズムは昇り始める 凝結・策散》1976年
右:辰野登恵子 《UNTITLED 96-3》1996年


一方、明快な色使いと手跡を残す筆触による大らかな画風を特徴とする佐野ぬいや、直線と曲線を併せ持つ形態によってリズミカルな画面を生み出す嶋田しづなど、戦後の抽象画においては女性の活躍も注目されます。


また、現代における抽象表現で特有の世界を追究している画家に、鮮やかな色彩と物理的な存在感のある形象を特徴とする辰野登恵子や、多様な色使いや筆触で活力ある画面を造る中村一美らがいます。大きな画面で、具象的な景物を採り入れない絵画世界は、抽象画の豊饒さをあらためて我々に教えてくれます。
2、光と影―都市との対話

■2-1 風景になる都市、その光と影

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高橋由一《愛宕山より品川沖を望む》1877年

山水や花鳥など自然の美を描くことは、日本における風景画の主要な主題でしたが、幕末以降は、風景画の主題として都市や街も採りあげられるようになっていきました。江戸期に街が発達して都市が形成されると、浮世絵においてまず、都市生活における風俗が盛んに写し取られました。横浜が開港し、以前よりも直接的に西洋との接触が可能になると、西洋画の迫真性に深い関心を寄せた画家たちによって都市が風景として描かれていきます。

横浜でチャールズ・ワーグマンに学んだ高橋由一は、油彩で風景を描きました。陸蒸気(おかじょうき)(鉄道)の煙が描き込まれた《愛宕山より品川沖を望む》に見られる空は、画面に明るい光を取り込んでいったことを伝えています。
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小林清親《隅田川夜》1881年 
加藤栄一氏寄贈

一方、来日作家には、モーティマー・メンペスのように、強い光と影から日本の情景を描きだす画家がいましたし、フェリーチェ・ベアトは、幕末明治の日本国内を探訪し、当時の多くの景観を撮影しました。 開港後、横浜の居留地がにわかに西欧都市に似た賑わいを呈し、その景観や風俗をとらえた横浜浮世絵が盛行をみますが、新たな帝都・東京には開化錦絵が拡がりました。中でも小林清親は、下岡蓮杖(しもおかれんじょう)に師事して写真術も学び、「光線画」を生み出すなど、文明開化で発展した都市を、西洋画風を採り入れながらも特有の光と影の扱いで新たな景観として描きだしました。

また、大正期から昭和にかけて、ニューヨークで学んだ清水登之の《ヨコハマ・ナイト》など、異国の街や夜の灯に照らしだされモダンな都市などを主題とする作品が見られます。中島清之(なかじまきよし)の《銀座A》は明るい画面にモダニズムを映す街が捉えられています。

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ルネ・マグリット《青春の泉》1957-58年
(c)ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2014
C0427

■2-2 西洋の作家の作品に見る光の表現

光に神や聖なるものを象徴させ、明暗法を生み出すなど、西洋美術においては常に光の表現が深く関わっています。マチス、ルオーらの師であったギュスターヴ・モローの《岩の上の女神》には、精緻な筆遣いと神秘的な色彩で、女神の光り輝く様を見ることができます。

また、1924年に詩人アンドレ・ブルトンによって大都会パリで提唱され、その後国際的に拡がった芸術革新運動であるシュルレアリスムの作家たちの作品は、当館コレクションではある程度のまとまりを持ち、コレクションの特色の一つとなっています。無意識の世界にこそ美や真実が宿ると主張した彼らの作品における光の表現を見てみるなら、例えば、化粧品で財を成したヘレナ・ルビンシュタインの依頼で描かれたサルバドール・ダリの三連作《幻想的風景》には、光に満ちた中央画面に対して、朝焼けと夕暮れを左右に取りあわせて太陽光の一日の流れが描かれています。

その一方で、光の受け方がそれらとは異なる青い球体も描き込まれ、複数の光源で光の当たり方を不合理に扱うことで、幻想的な世界が効果的に導かれています。
また、イヴ・タンギーの《風のアルファベット》には、強い光が差し込む空間に画家が追究する意識下の世界が描きだされています。このように、シュルレアリスムの作品には、無意識の世界を夢幻的に視覚化するために、光の在り方が重要な役割を果たしていることがわかります。

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國領經郎《飛行船の浮ぶ港の風景》1993年
国領經郎氏寄贈

■2-3 満ちる光、光と影

ここでは、現代作家の中で光と影を採り入れた作品や、画面全体に満ちる光が感じられるような作品を中心にご紹介します。
横浜生まれの國領經郎(こくりょうつねろう)の《飛行船の浮ぶ港の風景》は、横浜の山下公園とその前に広がる海を、飛行船の上から俯瞰し、穏やかな光が満ちた静謐で深閑とした空間が描き出されています。

また、現代のイギリスを代表する美術家デヴィット・ホックニーの《フレンチ・スタイルの逆光》は、チュイルリー公園に臨むルーヴル美術館の窓を中心にした直線で四角いフラットな色の面が、均質で明快な光に満ちた画面を導いています。
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奈良美智《春少女》2012年
(c)Yoshitomo Nara

第35回安井賞受賞作である奥山民枝の《山夢》は、絵具を塗り重ねて、まるで太陽が隠れているような、ふくらんでいくエネルギーそのものを描いているようですし、中上清の《Untitled》には、どこからやってくるのかわからない、ある象徴としての光によって、空間の広がりが生み出されています。

また、奈良美智の《春少女》には、中央に大きく描かれた少女が、優しいというより強い意思を秘めた表情で、正面からまっすぐに視線を向けていますが、画面いっぱいに暖かく柔らかい光が満ちているような作品です。 油彩画、版画などの画材や技法を越えて、光、また光と影がどのように扱われているか、多彩な表現をご覧ください。


■2-4 写真展示室:光と闇―現代の都市風景
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金村修
《「Keihin Machine Soul」より》1996年

放置自転車の群れ、統一感の無い看板や粗大ごみのひしめき合い――雑然たる商店街裏が、モノクロームで映し出された金村修の〈Keihin Machine Soul〉シリーズは、一目見てはすぐに忘れ去られ、どこかで見たようでどことは特定できない、匿名性の高い景観によって、廃棄と生成を繰り返す都市の無秩序なエネルギーを伝えています。

モノクロームが光と闇を一層際立たせるのは、磯田智子の《残像》です。近代の都市が生み出した地下鉄は、文字通りアンダーグラウンドである地下に増殖した都市。《残像》には、自然光に支配される昼夜と無縁に、走り抜ける車両が放つ光や駅を照らす光など、視界に入っては遠ざかる光を、地下の闇にか弱く生き続けるかのように捉えています。
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米田知子
《川(両サイドに仮設住宅跡地、中央奥に震災復興住宅をのぞむ)》
2004年(2005年プリント)

兵庫県生まれの米田知子の写真は、阪神淡路大震災の直後と、復興後の神戸を写し取っています。米田は、被災時の状況をヒアリングしながら、復興された芦屋の市内を踏査し、芦屋市内の美術作品救出と保存のプロジェクトに結びつける活動を行いました。被災直後と復興後の写真作品を同時に展示することによって、被災地の都市風景において失われた記憶と、再生が導く希望との間に横たわる時間の経過を浮かび上がらせています。

また平川典俊(ひらかわのりとし)の《A LONG LIFE》の8点は、ニューヨークで撮影された組作品で、いずれも公共的空間が捉えられていますが、そこに必ず写真家自身を映り込ませているといいます。また「No Christ」の文字を切り分けて各作品名に1文字ずつ付すなど、コンセプチュアルな手法を採り入れて、現代のありふれた日常におけるリアリティを問いかけています。
ホワイエ、グランドギャラリー:イサム・ノグチと近代彫刻

横浜美術館は、世界的な活躍をした美術家イサム・ノグチの彫刻作品を6点所蔵しています。詩人の野口米次郎と、アメリカ人レオニー・ギルモアの間に生まれたイサム・ノグチは、少年時代に茅ケ崎に住み、横浜のインターナショナル・スクールに通っていました。
都市空間における彫刻の意味を考えたイサム・ノグチの作品をまとめてご覧いただくと共に、シュルレアリスムの作家による彫刻作品もご覧ください。

基本情報

会期2014年12月6日(土)~2015年3月1日(日)
休館日木曜日、2014年12月29日(月)~2015年1月2日(金) 
※ただし、2014年12月25日(木)は開館
開館時間 10時~18時(入館は17時30分まで)
※夜間開館:2014年12月22日(月)~12月24日(水)は20時まで開館     
(入館は19時30分まで)
主催横浜美術館

観覧料

一般500(400)円
大学・高校生
300(240)円                               
中学生100(80)円
小学生以下無料

※( )内は有料20名以上の団体料金(要事前予約)
※毎週土曜日は、高校生以下無料(生徒手帳、学生証をご提示ください)
※障がい者手帳をお持ちの方と介護の方(1名)は無料
※毎月第3月曜日は横浜市在住の65歳以上の方無料(「濱ともカード」をご提示ください)
※企画展ご観覧当日に限り、企画展の観覧券でコレクション展もご覧いただけます。

関連イベント

アーティスト・トーク(コレクション展2014年度第2期)

日程(1)2015年1月18日(日)
(2)2015年2月15日(日)
時間いずれも14時~15時 ※13時30分開場                    
講師(1) 嶋田しづ
(2) 金村修
会場円形フォーラム、コレクション展展示室(写真展示室を含)
参加料無料 ※当日有効の観覧券が必要です
定員各回60名
申込不要  ※当日12時より総合案内で整理券を配布します。


ギャラリートーク(コレクション展2014年度第2期)

さまざまな視点から作品の見どころを紹介する、エデュケーター(教育普及担当)によるトーク。

日程2014年12月19日、2015年1月16日、1月30日、2月6日、2月20日 いずれも金曜日
時間いずれも14時~14時30分
会場コレクション展展示室
参加費無料 ※当日有効の観覧券が必要です
申込不要

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