30年以上の活動の蓄積を踏まえ、新しい美術館の姿をどうつくるか。
2021年から3年に及ぶ工事休館のあいだ、わたしたちはひたすらこのことを考えました。
そこで見えてきた思いを、「ミュージアムメッセージ」、「じゆうエリア」、「サイン計画およびリニューアルロゴ」によってあらわしました。
お客さまに向けたメッセージとして、またわたしたち自身の行動指針として、これからの美術館が目指すものを、「ミュージアムメッセージ」「ステートメント」「5つの願い」にぎゅっとまとめました。
横浜美術館でもっとも印象的な「グランドギャラリー」。
建物に入ると目の前に広がる大空間です。
建築家、丹下健三は、人びとが自由に、自発的に使いこなすことを期待して、ここを設計しました。
30年以上が経った今、わたしたちは、丹下の願いに立ち返り、その可能性をあらためて引き出すため、検討プロジェクトを立ち上げました。
こうして生まれたのが、グランドギャラリーを中心とする無料エリア、「じゆうエリア」です。
いろんな色、いろんなかたちの家具が置かれたここは、あらゆる人を歓迎する、どんな人にも居場所がある、そんな美術館の新時代を象徴する場所です。
2025年2月の完成まで、だんだんとできあがっていく様子を、楽しみながら見守ってください。
工事休館前の美術館には、30年以上のあいだにつくられたさまざまな案内表示が混在していました。
これを機に、誰もが理解しやすく、また追加や変更が容易なものに、サイン類を一新しました。
また、横浜美術館のシンボルマークとロゴタイプは、横浜出身のデザイナー、浅葉克己により、開館時の1989年につくられました。
今回、1989年のデザインを踏まえ、活動再開を記念する特別なシンボル、ロゴをつくりました。
サイン計画、リニューアルロゴ、ともにキーワードは「変化」と「ひらくこと」です。
国井 美果(くにい みか)
「みなとがひらく」というミュージアムメッセージは、一見とてもシンプルです。「横浜」で「みなと」、それは単に日本を代表する港町にある美術館だからというだけではなく、横浜美術館にしか言えないことを探った結果でもあります。館の新しい基本方針を定めた美術館のみなさんの胸には、これからの横浜美術館はよりいっそう、どんな人にもひらかれた場になるという強い意志がありました。それは美術館そのものがみなとであり、そこを訪れる人もまた、無限の可能性がひらくみなとであると言える。「あなたというみなとが、どこまでもひらく場所」でありますようにというその想いをまっすぐ、メッセージに表しました。港町にあるという宿命から逃げずに、何度も議論を重ねて強くしていきました。ここを訪れる人も、ここで働く人も、関わるすべての人にとって自分ごととなるメッセージであるといいなと思います。
<プロフィール>
コピーライター。立教大学文学部卒業。ライトパブリシティを経て、現在は個人事務所。コーポレートメッセージや企業広告、ブランドをつくる・磨くなど、社内外をつなぐさまざまな言葉やアイデアで企業や社会の活動に関わっている。主な仕事に、資生堂「一瞬も一生も美しく」、キリンHD 「よろこびがつなぐ世界へ」、伊藤忠商事「ひとりの商人、無数の使命」、UCC「ひと粒と、世界に、愛を」、絵本「ミッフィーとほくさいさん/美術出版社」など多数。
乾 久美子(いぬい くみこ)
設計者・丹下健三が使った御影石に埋め込まれているさまざまな色を抽出し、オリジナルの什器をつくりました。横浜美術館の特徴である巨大な天窓が修復されたことをいかし、自然光の下で石の色と什器がお互いに引き立てあい、和らいだ雰囲気が漂う場所を目指しました。入ってすぐ正面の「まるまるラウンジ」にはいろいろなサイズのテーブルと椅子を揃え、ひとりでも、みんなでいても居場所と感じられる場所になればと考えました。また、ユニット化した什器はシーンにあわせて組み合わせが変えられるようになっています。什器の制作にあたっては、さまざまな障がいのある方たちと共にインクルーシブワークショップを実施しました。原寸大のモックアップを試しながら知見を得るという貴重な機会がなければ生まれなかった家具もありますので、オープンを楽しみにしていてください。
<プロフィール>
1969年大阪府生まれ。1992年東京藝術大学美術学部建築科卒業、1996年イエール大学大学院建築学部修了。2000年乾久美子建築設計事務所を設立。
2000〜2001年東京藝術大学美術学部建築科常勤助手、2011〜2016年東京藝術大学美術学部建築科准教授。2016年より横浜国立大学都市イノベーション学府・研究室 建築都市デザインコース(Y-GSA) 教授。
菊地 敦己(きくち あつき)
サインやポスターなどのグラフィックデザインを手がけています。また乾久美子建築設計事務所と協働して空間のデザインにも取り組みました。新しい美術館を立ち上げるのとは違い、既存の美術館建築やこれまでの活動を捉えた上で、どのようにアップデートしていくかが課題でした。グランドギャラリーの階段は片側が四角、もう一方は丸をモチーフにした空間が特徴的です。新しいマークは、既存のマークの四角を同じ面積の丸に置き換えたもので、隙間がある風通しの良い組み合わせになっています。もともと存在する形が変化して、ひらいていく。このことは、横浜美術館がリニューアルで目指していることの象徴でもあります。また、「YOKOHAMA MUSEUM OF ART」などのタイポグラフィにも、四角と丸を組み込み、違う形やイメージが同居しながら調和することを目指しました。
展覧会を観に行くのはもちろんですが、グランドギャラリーで待ち合わせしたり、お茶を飲んだり、ぼーっとしたり、横浜美術館が公園のように身近な空間として、ひらかれていくことを期待しています。
<プロフィール>
1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。ブランド計画、ロゴデザイン、サイン計画、エディトリアルデザインなどを手掛ける。とくに美術、工芸、建築に関わる仕事が多い。主な仕事に、青森県立美術館(2006)やPLAY! MUSEUM(2020)のVI・サイン計画、ミナ ペルホネン(1995-2004)、サリー・スコット(2002-22)のアートディレクション、『旬がまるごと』(2007-12)や『装苑』(2013)などのエディトリアルデザイン、亀の子スポンジ(2015)やNEcCO(2023)のパッケージデザインほか。主な受賞に亀倉雄策賞、講談社出版文化賞、日本パッケージデザイン大賞、原弘賞など。