New Artist Picks
横浜美術館では、将来活躍が期待される若手作家を紹介する展覧会「New Artist Picks(NAP)」を、年に一度、アートギャラリーやCafé小倉山を会場に開催しています。2015年度は、映像作家・荒木悠(あらき・ゆう)を紹介します。
荒木は、1985年山形県生まれ。2007年、ワシントン大学サム・フォックス視覚芸術学部美術学科彫刻専攻を卒業後、2010年に東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修士課程を修了しました。これまで、韓国、タイ、ベトナム、フランス、スペイン、アイスランドなど、アジアや欧米各地に滞在し、そこで出会った地域の歴史や食文化を切り口とした、史実と個人史の折り重なる映像作品を制作してきました。
本展では、「authenticity(真正であること)」をテーマに、アメリカ南部の地方都市ナッシュビルとギリシャの首都アテネにある「パルテノン神殿」を題材にした新作の映像インスタレーションを発表します。
荒木が思春期を過ごしたアメリカ南部の地方都市ナッシュビルは、パルテノン神殿の原寸大レプリカがあることで有名です。1897年、当時、欧米各地を席巻していた新古典主義の影響の下、テネシー州成立100周年記念博覧会のために建造されたナッシュビルの「パルテノン」は、そのおよそ100年後、荒木が初めて作品を発表した展覧会の会場になりました。
長く暮らしを共にしたアメリカ人家族との関係、自己形成期に目の当たりにしたアジア人への差別や偏見の記憶。ナッシュビルは、荒木が異文化に適応することへの戸惑い、言語の限界など、容易に超えることのできない障壁のなかで、改めて美術に可能性を見出した場所です。荒木は今回、このナッシュビルの「パルテノン」を出発し、真正とは何に拠って定められるのかという問いを抱えて、アテネにあるパルテノン神殿を目指します。ここでは、「オリジナルと複製」「伝播と誤訳」「西洋と東洋」など、作家にとって切り離すことのできないテーマが、「パルテノン神殿」を取り巻く巨大な歴史と絡み合いながら、ひとつの物語として提示されるでしょう。
会期中にはCafé小倉山でも小展示を行うほか、アーティスト・トークを開催いたします。新進気鋭の若手作家の作品を、この機会にどうぞご覧ください。