絵画/映像―「越境」のアーティスト、初の大規模個展
スクリーンに映し出されたまっさらな壁や紙の上に、植物のように伸びていく線。その線は渦となって画面を覆いつくし、さまざまに様態を変え、また消えてゆきます。 石田尚志(いしだ・たかし)は、絵画制作のプロセスである「絵を描く」という行為そのものに着目し、それを映像メディアによって作品化します。
多くの作品で石田が用いるのは、「ドローイング・アニメーション」という手法です。抽象的な線を少しずつ描いてはコマ単位で撮影するという行為を反復して、「動く絵(ムーヴィング・ピクチャー)」を創り上げます。 映像のなかで描かれ続ける、終わりのない絵画。その制作過程は、目に見える、あるいは見えないさまざまな要素との対話の軌跡でもあります。テーブルや椅子、傍らの窓から差し込む陽光の移ろい、描き続ける作家自身の身体、そして制作現場に響いていた音や音楽。膨大な画像の編集作業を経て、再び映像としての「時間」を獲得した作品は、さながら線描で奏でられる音楽のようです。そこには、「絵が動く」という映像メディアが生まれながらにもつ視覚的魅惑が凝縮されています。
この展覧会は、昨今、現代美術および映像の領域で大きな注目を集める石田尚志にとって初めてとなる大規模な個展です。過去20年間の代表作に新作の映像インスタレーションを加え、パフォーマンスや上映会などの多彩な関連イベントも交えてその創作活動を俯瞰します。絵画、映像、音楽、身体表現など異なる表現形式を往還する、独創性に富んだ石田の芸術の魅力をご堪能ください。
※平成26年度[第18回]文化庁メディア芸術祭協賛事業
展覧会図録
『石田尚志 渦巻く光』 青幻舎、2015年