横浜美術館若手作家支援事業
百瀬文(ももせ・あや)は1988年東京都生まれ。2013年に武蔵野美術大学大学院造形研究科油絵コースを修了したばかりの新進アーティストです。
修了制作として発表した、聴覚障がい者との声にまつわる対話で構成された《聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと》や、自身の二人の祖母に取材した《The Interview about grandmothers》など、百瀬は声と身体との関係に着目した映像作品を制作しています。
本展タイトルである「サンプルボイス」とは、アニメーションやゲーム等のソフトウェアの販売促進を目的とした、登場人物のセリフの一部を聴くことができる音声サンプルのことです。2次元のヴィジュアルとして提示されたキャラクターを性格づける声を聴くことで私たちはそのキャラクターの全貌をとらえることができます。しかし、これらの声を聴くとき、その向こう側に演者の身体の存在を感じることはほとんどありません。彼/彼女らの身体はどこへ行ったのか。私たちは誰の声をきいているのか。百瀬はこのような身体と声との関係を、現代社会に生きる我々の他者との関係に重ね合わせ、様々な設定により描きます。さらに、イメージと音声とのずれといった映像ならではの現象を意図的に組み込むことにより彼女は、鑑賞者の認識に揺さぶりをかけます。
本展では「声」や「音」により直接的にかかわる人物をテーマとした新作を含む3点を出品します。会期中には、過去に百瀬が制作した映像作品の上映会を行うほか、展覧会に先立ち、百瀬が継続して行っている観客参加型パフォーマンス《定点観測》を実施します。