時代を超える像景
マックス・エルンスト(1891-1976)は、これまで我が国では主にシュルレアリスムを代表する画家のひとりとして紹介されてきました。本展は、そうしたシュルレアリスムという枠を一旦外し、エルンストの作品を「フィギュア」と「風景」というモチーフから検証し直すことで、エルンスト独自の関心のありようを探り、現代の日本人にとってエルンストの芸術はいかなる意義をもつのかを明らかにしようとするものです。
エルンストの作品には、人や天使、動植物、怪物的存在など、様々なフィギュア(像)が登場します。彼らはコラージュなどの偶然性を含む制作過程を経て生まれているため、ひとつのコラージュ小説の主人公であってもその姿は一定しません。こうしたエルンストの変幻自在なフィギュアの成り立ち方は、ルネッサンス以後の西洋美術における人体像が、現実形態を計測して抽出された一定の理想像に基づくこととは対照的です。
人体比例論が幾何学的遠近法に象徴される世界観の上に成り立つように、エルンストのフィギュアも下地となる空間表現と強く結びついています。エルンストはデ・キリコによって相対化された遠近法空間にとどまることなく、オートマティスム技法による絵具の染み、あるいは網目などから転写されたテクスチャーに加筆することで、森や廃墟、極地や天空の風景を出現させます。エルンストの空間とフィギュアは形態的にも、また意味内容的にも、相補的もしくは相乗的な関係にあります。本展では「フィギュア×スケープ」という概念の下に「フィギュア」と「風景(または空間)」の関係を見極めながらその主題を読み解くことにより、モダニズムの理論にもデペイズマンにも回収されないエルンストの関心の独自性に迫ります。本展では、マックス・エルンストのコラージュ、写真コラージュ、フロッタージュ、油彩画、版画、彫刻、出版物など、計約130点が一堂に会します。
展覧会図録
『マックス・エルンスト—フィギュア×スケープ』 「マックス・エルンスト—フィギュア×スケープ」展実行委員会、2012年