横浜美術館開館20周年記念展
《にっぽんの台所》、《にっぽんの通勤快速》、《公衆便女》など、現代美術家・束芋(たばいも)は、日本の現代社会の断片的風景を、独特の感性で描き出し、そのアニメーション映像を空間的に構成するインスタレーションで世界的評価を受けてきました。
デビュー間もない2001年には、第1回横浜トリエンナーレに最年少で出品したことでも話題になりました。デビューから10年、束芋は、再びこの横浜で、5点の大型映像インスタレーションを発表します。本展は出品作の全てが新作という、かつてない規模の個展です。
30代半ばを迎える束芋が、本展でテーマにするのは、自らの世代感と世界観そのものです。近年の作品で束芋は、現代の典型的イメージをつなぎ合わせるような作風から、指、髪の毛、内臓などをモチーフとする、より内的な作品へと表現の幅を拡げてきました。本展で束芋は、そこからさらに展開し、自分を取り巻く世界、昭和を知る最後の世代である同世代の感覚、異なる時代に生きた同年代の人々を見つめ直し、新たな作品世界を切り開いていきます。
本展では、そうした束芋自身をめぐる世界が、集合住宅という形で象徴されます。同じ間取りの部屋に、全く異なる生活が連なっている集合住宅。そこに包丁をいれるように、束芋は集合住宅の「断面」を切り出し、現在と過去が渾然一体となった様々な人生をえぐり出していきます。続く作品群では、人や自然といった生ある物の「断面」へと踏み込んでいき、より深遠な世界像を結んでいきます。
束芋の作品世界をより多角的にご紹介する会期中のイベントも盛りだくさんです。トーク・イベントに加えて、束芋と同世代のダンサー、ミュージシャン、劇団など、クリエイターたちとのコラボレーションによるダンス・ライブや演劇公演を開催します。
アーティスト活動10年を迎える束芋が作り上げる、世界の「断面」をお楽しみください。
展覧会図録
『束芋:断面の世代』 青幻舎、2009年