近年、大きな注目を集める若手アーティスト金氏徹平(かねうじ・てっぺい)の初めての大規模な個展を開催します。
氷の柱のように、白い樹脂が今にも滴り落ちそうな「彫刻」、壁一面に延びる白地図の線が架空の大陸を生み出す「絵画」など、金氏徹平の作品は、不動のものと動きあるものの境界や、実体のあるものとないものとの間の境界を覆してみせ、視覚的な謎掛けを挑んできます。
金氏徹平の作品は、コラージュやブリコラージュと呼ばれる「貼りつけ」や「寄せ集め」の手法により生み出されます。「見たことがあるようでいて、何だかわからないものをつくりたい」と語る金氏は、雑誌の切り抜きやプラスティック製品、木材などの身近な素材を使いながら、クリームのように流れ出しそうな彫刻、新種の生物の骨格標本のようなインスタレーションなど、未知のかたちを作り上げていきます。これらの作品は、私たちに、子どもの頃夢中になった遊びに似た快感と、複雑に合体したイメージが喚起する知的な連想とが同居する、心地よい刺激を与えてくれることでしょう。
この展覧会は、作家初の試みとなるアニメーションによる大型のビデオ・インスタレーションや、10m以上におよぶ巨大インスタレーションを核に、新作を中心とした約120点で構成されます。真っ白な空間から始まり、極彩色のモノがあふれる世界へ帰結するという全体構成のもと、生命力に満ちた都市や森に踏み込んだかのようなダイナミックな展示空間が創出されます。会期中にはパフォーマンスをはじめとする多彩なイベントも催され、それらを通じて、豊かな色と形が音楽的なリズムを生み出す金氏徹平の作品世界を体感して頂ければ幸いです。
展覧会図録
『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』 赤々舎、2009年