サビーヌ・デルクール(1968年生まれ)は、パリ第八大学で美術と写真を学んだのち、現在もフランスを拠点に制作・発表を行っている現代美術家です。彼女は地面に直接カメラを設置して撮影した建築物の写真を、テキストやインタビュー音声と組み合わせることで、土地や場所、建築物の歴史や社会的背景を重層的に表現してきました。
1992年から93年にかけて撮影した《移動》シリーズは、パリの郊外(セーヌ=サン=ドニ県)で撮影されたものです。古い観光ガイドブックで紹介されている場所を訪れて撮影した写真と、元となったテキストを重ね合わせることで、その土地の時間的変遷を示します。
《街をつくる人々》(2000年)シリーズは、ノルマンディー地方の一都市エルーヴィルで撮影されました。1960年代以降ニュータウンとして発展したこの都市のランドマーク的な建築物の映像と住民へのインタビューを織り交ぜて構成し、新しく造られた街の姿を描き出します。
デルクールは2002年9月から12月にかけて、アーカスプロジェクト実行委員会(茨城県)が主催するアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの招聘作家として来日し、茨城県守谷市に滞在しました。彼女は、滞在中に行った調査で、西洋の家屋とは全く異なる建築方法や素材によって建てられる日本の家が、単純な外観とは対照的に複雑な内部構造を持つことに関心をもちました。そこで、建築途中の戸建住宅を撮影するとともに、日本人の生活観と住宅建築との関係を考えるために、家や家族についてのアンケートを行い、インスタレーション作品《私たちを囲むもの…》を制作しました。この作品はこれらの写真、アンケートに加え、段ボール製の家型オブジェ、サウンドにより構成されます。
本展では、土地や建築物とそこに住む人々との関係を共通のテーマとした、デルクールの10年にわたる取り組みの結晶ともいえるこれら3つのシリーズを日本で初めてまとめて紹介します。