洋の東西を問わず、古い時代から、風景は絵に描かれてきました。しかし、そこに描かれた風景は、当初はもっぱら、神話画や物語絵、歴史画・宗教画などの背景であるか、あるいは理想化された想像上の自然景観でした。それでは、いつの時代から、画家は自ら目にする現実の風景を絵画の重要な主題として発見し、それ自体を描き始めたのでしょうか。
この展覧会は、17世紀から20世紀初頭にいたるヨーロッパと日本の美術において、実景が絵の主要な題材として描かれ、その表現が東西の影響関係の中で変化し成熟していく過程を、政治的・社会的あるいは文化史的な背景を考慮にいれつつ両者を対照させながらたどります。ここでは、その過程を、風景表現の近代化ととらえています。
ヨーロッパの絵画については、17世紀オランダとイタリアの風景画から19世紀フランスの自然主義的風景画まで、日本の絵画については、18世紀末の秋田蘭画(江戸後期の洋風画の一派)から明治末の白馬会(黒田清輝や久米桂一郎ら外光派の画家が結成した洋画の団体)の風景画までたどります。また、19世紀後半に、ヨーロッパの帝国主義的進出にともなってアジア諸国を訪れ、各地の風物や文化遺産、事件を撮影した写真家の作品も紹介します。国内初公開の西洋画や国指定重要文化財をふくむ約200余点の作品・文献・史資料(会期中展示替を予定)をご覧いただきます。
展覧会図録
『明るい窓:風景表現の近代』 大修館書店、2003年