宮崎進(みやざきしん)は、鎌倉市にアトリエを構え、独創的な手法を用いて精力的に制作を続ける造形作家です。近年は、合板に素描し、その上に麻布や綿布、紙などを貼り付け、着彩する手法を試みています。この手法により、隆起した素材がもたらす光と影が色彩と調和し、大地や人体などのイメージが、うごめくように迫り来る表情豊かな画面を作り上げます。
宮崎進は、1922年(大正11)山口県徳山市に生まれました。日本美術学校油絵科で学んだ後、徴兵により中国の国境付近に配属されました。終戦後は、シベリアで4ヵ年に及ぶ収容所生活を送りました。画家としての本格的な活動は1950年代に始まり、当初は重厚な色彩で東京の下町に暮らす労働者や北日本の荒涼とした風景を描きました。そして1967年(昭和42)、《見世物芸人》で第10回安井賞を受賞、具象画家として一躍その名を知られました。その後、作風は徐々に抽象的傾向を強め、1980年代には、柔らかい色彩が特徴的な色面絵画を手がけるようになりました。そして1990年代に入り、現在のコラージュを主体とする作風へいたったのです。
こうした半世紀にわたる創作活動から生み出された作品には、単なる感傷とは異質の野太さ厳しさがあります。技法や表現の違いを超え、作品に通底するこの厳しさはシベリア抑留という極限の状況に由来するものであり、作家が自らの体験を直接あるいは間接的に創作の原動力としてきたことを示しています。このことは1997年(平成9)に発表された銅版画「シベリア・シリーズ」の主題である「忘れないために」というメッセージとなり、作家自身の言葉で語られています。自己の体験を絶えず省みて作品化することは、作家が生きるうえでの課題だったのです。同時にまた、宮崎進は人間が内に秘める無限の創造力に強い信頼を寄せています。そして、その営みである芸術活動は、つねによろこびをもたらすものであるべきだという確信につき動かされ、自然や人間存在そのものを描き出そうとするのです。
本展は二部構成により、最新作を含めた約80点を紹介するものです。前半は、ものを創ることのよろこびを唄い上げた新作を中心に構成され、後半では原点に立ち返り、作家自身の戦争体験に対するたゆまぬ内省の中から生み出されてきた作品を紹介します。
展覧会図録
『よろこびの歌を唄いたい—宮崎進展』横浜美術館、2002年