生誕100年記念展
銅版画の一種マニエール・ノワールの巨匠として20世紀を代表する世界的版画家、長谷川潔は、1891(明治24)年、現在の横浜市西区御所山に生まれた。少年時代の潔は港をみつめながら、「なにか遠い大きなものが自分を呼ぶ心地がした」という。その予感どおり、彼は1918(大正7)年、27歳でフランスに渡り、ついに一度も故国に帰ることなく、60年の歳月を銅版画に捧げて1980(昭和55)年、パリに没した。享年89歳であった。
この展覧会は、渡仏前の表紙絵・挿絵を中心とする木版画から、渡仏後の試行錯誤の跡を示す様々な銅版画とともに、代表的なマニエール・ノワール作品、油彩画、下図、資料などを四部構成によって展示し、「長谷川潔の世界」を探ろうとするものである。
17世紀に創始され写真の発明によって殆ど消滅していたマニエール・ノワールの技法は、長谷川の手によって現代によみがえり、その作品は微妙な闇と光が織り成す深遠な世界を呈示している。そこには、長谷川独自の宇宙観・神秘観がひそやかに映し出されている。
展覧会図録
『生誕100年記念展 長谷川潔の世界』 朝日新聞社、1991年