館長ご挨拶
新しくなった美術館へようこそ!
横浜美術館が開館したのは、1989年のことです。みなとみらい21地区につくられた最初の施設のひとつでした。
以来36年間、展覧会を「みる」、市民や子どものためのアトリエで「つくる」、美術図書室で「まなぶ」の3つの豊かな経験を、来館者のみなさまに提供してきました。
2021年から3年以上にわたり、開館以来初となる大規模改修工事のため休館してきましたが、このたびいよいよ全館オープンを迎えました。
戦後日本を代表する建築家、丹下健三が設計した建物は、わたしたちの誇りです。これを大切に受け継ぎながら、いっそうみなさまに親しんでいただけるよう、リニューアルオープンにあわせ、いくつもの工夫をこらしました。
そのひとつが、美術館最大の見せ場であるグランドギャラリーに新しく置かれた家具やサイン類です。建築家、乾久美子とグラフィック・デザイナー、菊地敦己の手によるものです。
たくさんの種類のピンク色は、建物の石材の粒の色から採られました。いろいろな人が思い思いに過ごせる空間となるように、との願いを込めています。
美術館は、もちろん美術と出会うための場所です。しかし、「美術と出会うこと」自体が目標というわけではありません。
作品を見る。自分でもつくってみる。グランドギャラリーで一息つく。もっと知りたいと美術図書室に足を運ぶ。カフェでのどをうるおし、ショップで思い出の品を選ぶ。これら一連の経験を通して、来館者お一人おひとりが、よりよい生【せい】を生きるための力をチャージする。こここそが、美術館が見据えるゴールなのです。
美術館に来てよかった。よい時間だった。
来館者のみなさまにそう言っていただけるよう、わたしたちはこれからも力を尽くします。
2025年2月
横浜美術館 館長
蔵屋 美香
撮影:加藤甫