天才ポルシェ博士の遺産
20世紀における技術革新の流れのなかでも、自動車の分野で達成された成果には目覚ましいものがありました。自動車は人々の行動半径を大きく広げ、またその生活を大きく変えながら現代社会の隅ずみにまで浸透してゆきましたが、なかでもその最先端をゆくスポーツカーには次々と改良が加えられ、現代の夢を託すにふさわしいそのスピードと美しい形態によって多くの人々を魅了してきました。すなわち、スポーツカーには、単なる技術の集積を越えた美学が通っているといえるでしょう。こうしたスポーツカーの歴史において、一際その功績をたたえられるのが、フェルディナント・ポルシェ(1875-1951)であることはいうまでもありません。彼は、1932年にレーシングカーの基本構造としては革命的なアウトウニオンPワーゲンを設計するなど、その大胆な発想によって常に時代を先取りした天才であり、その精神は現在のポルシェ車にも脈々と受け継がれています。
本展は、こうしたポルシェ博士の理念を美術的観点からとらえなおすために企画されたもので、西ドイツのポルシェ博物館から初めて海外に紹介されることになった貴重なスポーツカーなど14台、ほかエンジンや図面、記録写真にインダストリアル・デザイン製品をまじえた総数約220点の作品で構成されます。この機会に、是非、天才ポルシェ博士の精神をふりかえり、あわせて“20世紀の夢ースポーツカー”の美学をご鑑賞ください。
展覧会図録
『スポーツカーの美学 フェルディナント・ポルシェ博士の遺産』 朝日新聞社、1990年