この展覧会は、浮世絵師・歌川 国芳(1797 寛政9~1861 文久元年)を起点として、国芳の近代感覚にあふれた斬新な造形性が、国芳の一門や画系にどのように受け継がれ、さらに、新たな展開を見せていったかを、江戸末期から昭和初期の日本画、油彩画、水彩画、版画、刊本などの作品、資料を通して探ろうとするものです。
歌川国芳は、歌川豊国門下の浮世絵師で、同門の兄弟子・歌川国貞と並び、江戸末期の浮世絵界を牽引しました。雄壮奇抜な武者絵をはじめとして、美人画、役者絵、機知と諧謔に富む戯画や諷刺画、洋風の表現を取り入れた風景表現など、その幅広い画域と作風によって、近年、評価がますます高まっています。
国芳門下の第1世代には、歌川芳員、落合芳幾、歌川芳虎などの浮世絵師のほか、月岡芳年、河鍋暁斎、そして洋風表現で一派をなした 五姓田芳柳などの異才が輩出しました。とりわけ、芳年の門下には、歴史画の水野年方、物語絵・風俗画の鏑木清方、さらに清方の弟子の伊東深水や寺島紫明などが連なり、日本画の一大画系を形成しています。また、清方門下には、版元・渡邊庄三郎率いる新版画運動に参加した深水、川瀬巴水、笠松紫浪らがおり、大正期から昭和にかけて、木版画の新たな可能性を拓きました。
本展では、国芳の系脈に連なる画家たちのこうした幅広い展開を、4章立て約250 点(展示替あり)でたどります。1989年の開館以来、記念すべき100 本目の企画展となる本展に、ご期待ください。
展覧会図録
『はじまりは国芳—江戸スピリットのゆくえ』 大修館書店、2012年