HARBIN 2009-2012
写真家・梶井照陰(かじい・しょういん)は、2009年、初めて訪れた中国東北部の都市ハルビンで、大規模な開発計画により固有の都市風景や古くからの生活様式が今まさに失われようとしていることを知り、衝撃を受けます。 激変する生活環境と、そのただ中に暮らす人々をより間近に捉えるべく、梶井は中国語を学び、その後毎年一定の期間をハルビンに暮らして、街と人々の表情を撮り続けてきました。本展で初めて公開される新作シリーズ「HARBIN 2009-2012」には、この間に梶井が目の当たりにしたハルビンの現実が、淡々としかし穏やかな眼差しで写し出されています。
梶井は現在、新潟県佐渡島の最北端・鷲崎で、写真家としてだけでなく僧侶として生活しています。作家が暮らす村は人口の半数以上が65歳以上、俗に「限界集落」と呼ばれ、年々働き手が減ってゆくなど、構造的な問題を抱える地域です。同様の状況に置かれた全国の限界集落に目を向けた梶井は、2009年に『限界集落―Marginal Village』と題した書籍と展覧会を発表しました。「限界集落」と同様、「HARBIN 2009-2012」においても、梶井の視線は一貫して表情豊かな人々の姿に注がれています。多様な人々と、画一化する都市景観との対比は、本当の豊かさとは何か、今一度我々に立ち止まって考えることを促します。
梶井は、佐渡の大波を撮影した「NAMI」でデビューし、その後、世界の川を独特の視点で撮影した「KAWA」により、国際的にも高い評価を得ました。横浜美術館では、2007年に開催した企画展「水の情景―モネ、大観から現代まで」で《NAMI》を紹介し、本展は横浜での5年ぶり2回目の作品展示となります。本展は、梶井が「限界集落」により平成21年度五島記念文化賞美術新人賞を受賞したことを記念して開催するものです。