石や金属の彫刻をはじめ、家具・照明器具から公園まで、私たちの心をなごませたり、ワクワクさせたりする大小さまざまなものをつくったイサム・ノグチ(1904-1988)。日本人の父と米国人の母の間に生まれたノグチは、国籍や民族のちがいを超えた、人類の精神にとって根本的なものを突き止め、それを現代に生かす造形を手がけました。
こうしたスケールの大きいノグチの仕事を、この展覧会では「世界とつながる彫刻」と名づけました。ノグチは一貫して「自分は彫刻家だ」と語っていました。彫刻は、家具にも照明にも公園にもなることができるし、だからこそ彫刻家は社会に大きく貢献できると確信していたのです。
携帯電話やさまざまなデジタル・メディアが普及した今日、私たちは情報のやりとりには事欠かなくなりました。しかしその一方で、人びとが心から連帯し共感しあう機会や場は限られています。ばらばらになった人びとが再び集う場をつくること、宇宙的視点から世界の真の姿について共通の理解をうながすこと。ノグチはそうした芸術の課題に早くから気づき、生涯これに取り組んだのです。展覧会の出品作計72点は「顔」、「神話・民族」、「コミュニティーのために」、「太陽」の四つのキーワードによって分類され、ノグチのイメージが鮮やかに立ち現れるように展示されます。モダンダンスの先駆者、マーサ・グラハムのためのオリジナル舞台セット《暗い牧場》(1946年)を、初演当時の映像とともに日本で初めて展示します。
展覧会図録
『イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展』 横浜美術館、2006年