本展は、ブルガリアの女性現代美術作家、ナデジダ・オレック・リャホヴァによる日本での初個展です。ナデジダ・オレック・リャホヴァ(1960年生まれ)はソフィア国立芸術アカデミーを卒業後、テレビや舞台美術の世界で活躍するかたわら、ブルガリア国内外において個展やグループ展を多数開催してきました。彼女は食器や石鹸、氷、綿菓子など身近な素材を用い、味覚や嗅覚、触覚に訴えかける様々なインスタレーションやパフォーマンスを行っています。
日本初個展となる今回は、平面作品4点を中心に構成されたインスタレーションを展示し、4回のパフォーマンスを行います。「ヴァニタス(Vanitas)」とはラテン語で「空虚(くうきょ)、はかなさ、むなしさ」を意味する言葉で、17世紀のオランダの静物画で中心的な主題となり、「人生のはかなさ」の寓意として、頭蓋骨(ずがいこつ)、砂時計、蝋燭(ろうそく)、花、果物などが描かれました。リャホヴァはこの伝統的な主題からインスピレーションを受け、パフォーマンスとデジタル処理した写真により、現代のヴァニタス静物画を描きだします。
会期中4回行われるパフォーマンス《ヴァニタス》では、テーブル上に並べられた皿に作者の顔をかたどったアイスクリームのオブジェと果物が盛られ、参加者がそれをスプーンですくって食べます。食べるという行為を通して、参加者は作品世界に直接かかわり、人生や美のはかなさを体感することになるでしょう。会場の壁面には街角で撮影された、花柄の服を着た女性達の後ろ姿に、本物の花の写真を合成した平面作品《デジタル・スティル・ライフ》シリーズが展示されます。繰り返される花の背景にとけこみ、のみこまれていくかのように見える彼女達の姿は、有限と無限について観る者に問いかけます。パフォーマンスが行われていない日も会場のテーブル上には空の皿とスプーンが置かれるなど、ギャラリー内の展示は「ヴァニタス」という言葉から連想される様々な要素で構成されています。
本展では、ナデジダ・オレック・リャホヴァの作品を紹介するとともに、講演会などを通して、ブルガリアの現代美術の一端を紹介します。