横浜、そしてパリ―
長谷川潔は、1891年(明治24)横浜に生まれました。版画家としての出発点は、描くこと、彫ること、擦ることをすべて自分でおこなう「創作版画」の手法で制作した鮮烈な白黒木版画でした。そして、さらなる探究心をいだいて、銅版画技法を習得するために27歳でフランスに渡ります。1925年(大正14)、途絶えていた「黒の技法」マニエール・ノワール(英語ではメゾチント)を再創造して高い評価を得ました。その後もあらゆる銅版画技法をマスターし、風景、草花、静物などを主題とする版画を制作。1980年(昭和55)に89歳で没するまで、一度も帰国することなくフランスで活動しました。晩年にふたたび取り組んだメゾチントによる静物画は、目には見えない宇宙のリズムまでも伝えるようで、長谷川芸術の到達点を示しています。
横浜美術館は、長い年月をかけて650点におよぶ版画作品を収集してきましたが、2005年には、パリのアトリエに残された1000点を超えるデッサン、水彩、下絵の寄贈を受け、内容をさらに充実させました。本展は、この長谷川潔コレクションを初めてまとまったかたちで紹介するものです。選びぬかれた約250点の作品と豊富な資料を、「裸婦とミューズ」「草花・静物」など、版画家が生涯をかけて取り組んだテーマに沿って展示することで、制作のプロセスやモチーフの変化を浮き彫りにし、作品のひみつに迫ります。
会期中は、館をあげて多彩なイベントをご用意します。展示室での鑑賞にとどまらず、五感のすべてで「長谷川潔」を満喫してください。
展覧会図録
『銅版画家 長谷川潔 作品のひみつ』 玲風書房、2006年