19世紀のフランスでは、前世紀末の革命の余波を受け、政治・社会が大きく変動し続けました。美術の表現も、こうした社会情勢と歩を一にするように、さまざなな革新が試みられました。
ギュスターヴ・クールベは、神話・宗教や歴史的主題を扱うことを重視するアカデミックな絵画の規範に逆らい、自身が生きる時代と社会をあるがままにとらえるレアリスム(写実主義)を掲げました。《海岸の竜巻(エトルタ)》は、ノルマンディ地方の景勝地を訪れた実体験に即して描かれたものです。ポール・ガヴァルニやオノレ・ドーミエによる風刺画の隆盛も、都市に生きる市民の眼差しに基づいています。
印象派が「写実」への意識をさらに強めると、その反動として、目に見えない精神世界を重んずる作家たちが現れました。神秘的な魅力をたたえる《岩の上の女神》を描いたギュスターヴ・モローは、その代表格といえるでしょう。
印象派による新しい「写実」と、伝統的絵画に通ずる秩序だった画面構成とを融合し、絵画表現に大きな変革をもたらしたのがポール・セザンヌです。彼は、妻や故郷の山を繰返し描きながら、対象の量感と周囲の空間を力強く再現し、画面を堅牢(けんろう)に構築することを目ざしました。その探求は、ジョルジュ・ブラックやパブロ・ピカソに受け継がれ、20世紀初頭のキュビスムの誕生を準備することになります。 |