日本における現代銅版画の先駆者(パイオニア)である駒井哲郎(1920-1976)は、深淵な詩的世界が刻まれた版画により、国内外で高く評価されてきました。黒いインクと白い紙の豊かな表情のなかに立ち上がる、夢と狂気のあわいを彷徨う駒井の宇宙。それは、デジタル時代の今こそ観る者を魅了します。
駒井は銅版画を追求した一方、詩人や音楽家と交流し、総合芸術グループ「実験工房」での活動や詩画集の出版などで、文学や音楽との領域横断的な表現を試みました。またルドンをはじめ西洋画家たちへの敬愛も、駒井の芸術観の形成に深く関わっています。
本展では、初期から晩年までの駒井作品の展開を縦糸に、芸術家たちとの交流や影響関係を横糸とすることで、多面的な駒井の姿を捉えなおし、その作品の新たな魅力に迫ります。色彩家としての知られざる一面も、福原義春氏のコレクション(世田谷美術館蔵)を核とした色鮮やかなカラーモノタイプ(1点摺りの版画)によってご紹介します。駒井の版画作品や詩画集など計約210点とともに、関連作家作品約70点を展示し、さまざまなジャンルとの有機的な繋がりにより紡ぎ出された、豊穣な世界をご覧いただきます。
駒井哲郎《束の間の幻影》1951年
サンドペーパーによるエッチング、
18×28.9㎝
横浜美術館(北岡文雄氏寄贈)
©Yoshiko Komai 2018/JAA1800116
駒井哲郎《黄色い家》1960年、
ディープ・エッチ、アクアチント(1版多色)、
21.1×16.1㎝
世田谷美術館(福原義春コレクション)
©Yoshiko Komai 2018/JAA1800116
駒井哲郎《R夫人の肖像》1971年
アクアチント、エッチング
17.8×14.8㎝
横浜美術館
©Yoshiko Komai 2018/JAA1800116