銅版画と一口に言っても、その技法はさまざまです。駒井は多彩な銅版技法を駆使し、微妙な諧調の面と鋭い線、緻密な描写と幻想的な抽象形態、ストイックなモノクロームと色彩あふれる画面など、一見相反するような作風を同時並行で追求しながら、幅広い表現を生み出しました。他に追随を許さない駒井独自の腐蝕(ふしょく)により生み出された、紙の上に匂い立つような豊かな表情。それは、デジタル時代を迎えた今だからこそ、私たちの心を揺さぶります。
本展では、日本における現代銅版画のパイオニアである駒井作品の展開を初期から晩年まで6章構成でたどります。
駒井は1950年代にインターメディアな前衛芸術集団「実験工房」に参加し、作曲家・湯浅譲二との共同制作によるオートスライドや、立体オブジェの制作を行っていました。また、50年代後半から大岡信や安東次男(あんどうつぐお)ら、多くの詩人たちと、詩画集の制作や詩集の装幀などのコラボレーションを実現しました。
本展は、駒井のジャンルを超えた表現に着目し、文学や音楽との領域横断的な特質を持つ、駒井芸術の魅力にも迫ります。
駒井は、銅版画はもちろん、西洋美術史の幅広い知識を持っていました。ルドンをはじめ、クレーやミロなど西洋画家たちの作品が駒井の創作へ与えた影響も少なくありません。また彼は、そうした敬愛する芸術家たちについての評論を美術雑誌などへ数多く寄稿しており、そこからは駒井自身の芸術観を読み取ることができます。
本展では、駒井の文章を紐解きながら、駒井が敬愛した西洋画家たちの作品と、駒井作品を包括的に並べる初の試みです。