シュルレアリスムと写真

ここでは、シュルレアリスム運動が展開するなかで発見され、新たに見出された写真表現の数々を、この運動に関わった画家や文学者のポートレイトとあわせて紹介します。

世紀末前後のパリの街を記録し続けたウジェーヌ・アジェは、マン・レイをはじめとするシュルレアリストたちの目にとまり、「シュルレアリスムの先駆」と位置づけられました。生涯、匿名の資料制作者に徹し、直接シュルレアリスム運動に参加することはありませんでしたが、アジェの写真は都市計画によって失われてゆく風景の記録に留まることなく、みるものを幻想的な世界へと誘[いざな]います。

文学と密接な関係にあるシュルレアリスムにおいて、写真は、文学的なメッセージを目に見えるものとして提示するだけでなく、シュルレアリストの感性を刺激する存在でもありました。ジャック=アンドレ・ボワファールは、アンドレ・ブルトンの著書『ナジャ』の挿図など、文学のテキストに作品を添えました。人気[ひとけ]のない街や足の親指など、わたしたちの創造を喚起させるイメージを創りだしています。

シュルレアリスムの美術表現では、偶然おこる現象により無意識の世界を描き出す動きもみられました。こうした実験的な手法は写真においても試みられています。マン・レイは、ネガとポジを反転させるソラリゼーションにより、日常の事物を非日常的なイメージへと転換させ、現実を超えた世界を視覚化しました。アンドレ・ケルテスは、「ディストーション」という鏡を使って画面を変形させるシリーズで、現実と夢の狭間[はざま]をみるような 世界を写し出しています。

マン・レイ(1890-1976)
無題
1931年頃(後年のプリント)
ゼラチン・シルバー・プリント
Man RAY
(1890-1976)
Sans Titre
ca.1931 (new print)
gelatin-silver print

マン・レイ《無題》