1924年のアンドレ・ブルトンの宣言に始まる「シュルレアリスム」は、人間のイマジネーションを理性の鎖から解き放つことを謳った芸術運動です。既存の秩序を覆し、新しい世界の創出を目指す運動の趣旨は、社会思想にも影響を与えながら、ヨーロッパを中心に世界的な広がりをみせました。
シュルレアリストたちにとって、世界は目に映ったままの姿にとどまりません。その豊かな想像力は、ひとつの事物から他のイメージを次々と紡ぎだし、奇抜ともいえるイメージの変容を可能にしていきます。
木や石に紙をのせて鉛筆で模様をこすりだす「フロッタージュ」や、液状の絵具に紙やガラスを押し当ててできる形象を利用する「デカルコマニー」といった表現方法は、偶然性によってそれまでにないようなイメージを生みだす恰好の手段となりました。フロッタージュを油彩に応用したエルンストの《毛皮のマント》では、こすりだされた模様が巧みに鳥の羽毛におきかえられています。ドミンゲスの《無題―デカルコマニー》では、不定形のかたちは人間の巨大な頭部に変じています。
サルバドール・ダリは、雲たちこめる空を飛ぶ鳥と女性の上半身を、ダブル・イメージによって描きだしました。広大な風景と人物とが入れ替わり立ち替わり迫ってくる作品は、変容を繰返すダイナミックな「幻想的風景」を実現しています。


※本図版の掲載期間は、2005年3月23日(水)までです。
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