窓ガラスやコップなど、ガラスは私たちの生活に欠かせない身近な素材ですが、1960年代のアメリカでは、工業や工芸という枠組みを超えてガラスによる芸術表現を目指す「スタジオ・グラス運動」が起こりました。小型のガラス炉の導入により、それまで工場や職人の工房に限られていた溶融ガラスを成形する技術が個人のスタジオでも可能になったことから、他の素材にはないガラスの特性を芸術表現の手段として取り入れようとする作家たちが現れたのです。
高温で溶けたガラスは、吹き竿で吹いて膨らませたり、ピンセットで引っ張って曲げ伸ばしたり、型に流し込んだり吹き込んだりして形を作ることができます。また、溶岩のように流れた跡や、ガラスの塊を割ってできた偶然の形を作品に取り入れることもできます。
イジー・シュハーイェクの《ひざまづく者》は、ピンセットで引き伸ばされたガラスの身体が、ユーモラスでもあり人間存在の不安を表しているようでもあります。吹きガラスの技法を使ったデイル・チフーリの《海の形》は、波打つような薄いガラスが海の底で水に揺らぐ生き物のように見えます。チェスラフ・ズベールは、ハンマーでガラス塊を割って偶然できた形を生かし、鮮やかな色彩を施して、ポップな顔の作品を作っています。ガラスがつくる有機的で触覚的な形は、素材の透明性とあいまって、幻想的で不思議な世界を生みだします。

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