現実世界の写実から離れた幻想的なイメージは、日本の伝統的絵画において花鳥風月などを主題とする作品の中で、かねてより描き続けられてきました。現代においては、そうした伝統を引き継ぎつつ、さらに西洋絵画の影響や、画家個人の資質や関心の在りかにより多様性を見せています。
工藤甲人(くどう・こうじん)は、故郷津軽での幼少期の自然体験、あるいは西洋の画家ウィリアム・ブレイクやヒエロニムス・ボスの絵画の影響を受け、樹木や動物、蝶などをモチーフに、郷愁に満ちた幻想的な世界を描き出して来ました。《地の手と目》は、自然観察に基づく精緻な表現で、土中に胎動する生命の深い響きを伝えています。
東京下谷の天台宗の寺院に生まれた近藤弘明(こんどう・こうめい)は、幼少の時に得度して僧籍に入って以来、仏教と深い関わりを持ち続けている画家です。その仏教思想に根差した深い精神性は、《寂夜》に見られるように、花や蝶をモチーフとする、神秘的な絵画空間に反映されています。
伊藤彬(いとう・あきら)は、伝統的な水墨画を乗りこえるために、墨と木炭を併用する独特の方法で、光や空間を緻密に表現する画風を確立しました。《イメージのなかの山水》は画家がイタリア旅行中に目にした歴史的建造物の古いしみが着想源となったといいます。巨大な画面に、躍動感あふれる構図で描かれたモノクロームの山水には東洋的美意識が感じられます。 |