フランスの近代写真 都市風景とポートレイト
展示風景

展示風景

 ここでは19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス写真を紹介します。
 草創期に活躍した写真家H.バヤールやH.V.ルニョーは、科学者、発明家としての顔を持ち、写真の技術的発展にも大いに貢献しました。彼らの主な被写体は、人物、そして身近な風景でした。その後のフランス近代写真史は、この2つの主題を軸に展開していくことになります。
 ナダールは、19世紀最大の肖像写真家として知られます。1850年代のパリでは肖像写真が大流行していましたが、中でも最も人気のあったナダールの写真館には、ボードレール、ゴーティエといった著名人が競うように訪れました。モネやセザンヌ、ドガらの絵画作品を集めた最初の印象派の展覧会がナダールの写真館で開かれたことも有名です。また、1880年代から写真を撮りはじめたR.ドマシーは、ソフトフォーカスや独自の印画法を用いた絵画的な人物写真によって名声を博しました。
 1852年にはじまったオスマンによるパリ大改造を契機に、パリの街は近代都市へと急速な変貌をとげていきます。Ch.マルヴィルは、その大改造の様子を写真によって記録していきました。一方、E.アジェは、世紀転換期のパリの失われゆく古い町並みに目を向けます。その当時、彼の仕事はほとんど評価されませんでしたが、マン・レイらシュルレアリスムの美術家たち、そしてアメリカの若い写真家たちに大きな影響を与えることとなりました。さらにシュルレアリスムの影響から出発したA.ケルテスやH.カルティエ=ブレッソンら次世代の写真家たちが、20世紀の写真史を形作っていきます。
 都市と社会の近代化や、新しい芸術運動の展開と歩調をあわせつつ、伝統的な美意識も堅持しつづけたフランスの近代写真の粋を、10作家、約90点の作品でお楽しみください。