テーマ展示:「祝いとよろこびを描く」
ヨコハマ・ナイト | 清水 登之

清水 登之(1887-1945) 《ヨコハマ・ナイト》
1921(大正10)年 油彩、カンヴァス
SHIMIZU Toshi(1887-1945) Yokohama Night
1921 Oil on canvas

 ここでは、横浜開港150周年と当館開館20周年の記念にちなみ、「祝い」と「よろこび」の情景を主題とした作品に焦点を当てます。
 「祝い」の情景は、さまざまな美術作品が制作される契機となってきました。いにしえより、多様な宗教儀礼や祭り、豊穣や繁栄を祝う四季行事が営まれ、その様子が描かれてきました。小山敬三[こやま・けいぞう]の≪海浜祭日[かいひんさいじつ]≫は、茅ヶ崎の「浜降[はまおり]祭」に取材しています。神輿が次々と海に入り禊を行うことで知られる勇壮な祭りの様子を、力強い輪郭線と筆使いで画面いっぱいにあらわし、人々の群れをどっしりとした構図でとらえています。
 誕生や婚礼などの慶事の場面もまた、古来多く描かれ、とくに宗教的人物や歴史的人物のそれは、重要な画題として扱われてきました。また近現代の美術では、個人にとっての節目の慶事のみならず、日常のささやかな幸せをテーマとした、私的なよろこびの情景もさまざまに描写されてきました。日本の商業写真の草分けとして知られた鈴木八郎[すずき・はちろう]が、小さな庭の自然を撮り続けた写真集『わが庭を写す』におさめられた作品は、愛する家族とともに季節の移ろいを感じながら日々を過ごすことへの祝福に満ちています。
 芝居や曲芸、サーカスなどの主題もまた、人々の「非日常(ハレ)」への入口としての「祝いの空間」を描いたものといえます。ここではこうした作品に加え、ゴーギャンが「楽園」タヒチの原初的で力強い生の悦びをあらわした版画などもあわせて展示し、多様な意味において「祝い」と「よろこび」の主題につながる作品を紹介します。