現代日本画の諸相
寂夜 | 近藤 弘明

近藤 弘明(1924年生まれ) 《寂夜》
1966(昭和41)年 紙本着色 近藤弘明氏寄贈
KONDŌ Kōmei(1924-) Night of Tranquility
Color on paper
Donated by Mr.Kondō Kōmei

 「日本画」は、一般に、伝統技法による日本絵画の総称と考えられていますが、日本画という名称が用いられるようになったのは、明治20年代(1890年頃)以降のことです。狩野派、土佐派などの流派に分かれた伝統絵画は、明治時代に入って、洋画の対概念としてつくりだされた日本画に、再編されました。日本画は、紙、絹などに墨、岩絵具などの天然顔料[がんりょう]を膠[にかわ]で定着させ、金箔なども用いて描かれます。ここでは、今日に至るまで受け継がれてきた日本画の技法で制作された戦後の作品をご紹介します。
 墨一色で心象風景を描く伊藤彬[いとう・あきら]の《イメージの中の山水》は、これまでの水墨画や南画の枠を越えた墨の可能性を引き出しています。上野泰郎[うえの・やすお]の《地なるもろびと》における金箔は、整然と並べて均質な金地を作り出すのではなく、彩色された人物の形態を引き立てながら、華やかで統一感ある画面効果を生み出しています。松井冬子[まつい・ふゆこ]の《世界中の子と友達になれる》では、紙の上に絹を貼り込み、裏箔をほどこすことによって、柔らかな空気感を画面にもたらし、むしろ藤の房先に密集する無数の蜂のおぞましさを際立たせています。
 花鳥風月や古典文学に取材した伝統的な主題を離れ、モチーフやテーマを自在に選びながらも、繊細な日本画の画材や技法の特質に魅せられ、それを効果的に用いて制作する画家たち。日本画が受け継ぐ独自の技法と画材が、画家の個性を支え、新たな表現の可能性をひらいていることに気づかされます。