シュルレアリスムの美術
展示風景

展示風景 Installation View

 1924年のアンドレ・ブルトンの宣言にはじまるシュルレアリスムは、常識の軛[くびき]から人間の想像力を解き放つことを目指した文芸運動です。その最盛期が、ヨーロッパ全土を巻き込んだ第一次世界大戦と、それ以上の惨劇をもたらす第二次世界大戦のはざまにあったことは、偶然ではないでしょう。人間存在に対する根源的な不安と疑念が、理性の抑制のきかない夢の世界や無意識への眼を開いたのです。
 多めに絵具を塗ったカンヴァスにガラスや紙を押しつけてできる形象を用いて森の神秘を描きだす、エルンストの《少女が見た湖の夢》。飛ぶ鳥や雲と人間の姿を重ね、人体をダイナミックに変容させるダリの《幻想的風景》。だまし絵のような画面に詩的なタイトルを添えることで、イメージと言葉の双方の意味を無限に広げていくマグリットの《王様の美術館》。
 シュルレアリストたちが生み出す不可思議な世界は、一元的な解釈を許さず、見るものの感覚を、ときに不安になるほど撹乱します。彼らの企図は、そういう衝撃が日常生活にまで波及し、凝り固まった観念を突き崩す原動力となることにありました。既成の価値観や社会を変えようという信念に支えられたシュルレアリスムの表現は、国境も時代も越えて、今なお人びとに力強く訴えかけてきます。