ここでは企画展「源氏物語の1000年」にあわせ、コレクションの中から物語、和歌、謡曲など日本の古典文学や仏教説話、神話、伝説に取材して、独創的な表現を試みた画家たちの物語性ゆたかな作品をご紹介します。
岡倉天心[おかくら・てんしん]の指導のもと明治31年に結成された日本美術院の画家たちは、西洋画法に学びながらも、日本や東洋の歴史、古典文学に取材した伝統的画題に新たな解釈を加え、日本画の大きな流れの一つを形成しました。
下村観山[しもむら・かんざん]は《闍維》において、仏教説話の一場面を臨場感あふれる劇的場面として描いています。『平家物語』に取材した木村武山[きむら・ぶざん]の《堀河の静》は、義経の愛妾静が堀川邸襲撃の際に、泰然として甲冑を取り出す姿が描かれています。
《闍維》
明治31年
絹本着色
SHIMOMURA Kanzan (1873-1930)
The Cremation of Buddha
1898
Color on silk
《弱法師》
大正4年
絹本着色、双幅
原範行氏・原會津子氏寄贈
SHIMOMURA Kanzan (1873-1930)
"Yoroboshi", from Noh play
1915
Color on silk, a pair of hanging scrolls
Gift from Mr. Hara Noriyuki and Mrs. Hara Etsuko
後進の安田靫彦[やすだ・ゆきひこ]、今村紫紅[いまむら・しこう]、小林古径[こばやし・こけい]らもまた、多くの伝統的画題に取り組みました。ここでは、三者が別々の時期に同じ謡曲に取材した作品を展示します。いずれも須磨の浦で旅の僧が見た一夜の夢物語から、月夜に汐汲みから帰った海女の姉妹、松風と村雨を描いています。靫彦の《松風》は、紅児会第7回展出品画で、歴史主題の写実的な描写に新たな展開をみせた時代の作品です。紫紅と古径の《松風》は、ともに能舞台での様を描いたもので、前者には南画風の筆致を、後者には大和絵を基盤とした上品で清楚な表現を見て取ることができます。
松風
昭和23年
絹本着色、軸
KOBAYASHI Kokei(1883-1957)
Scene from the Tale of "Matsukaze"
1948
Color on silk, hanging scroll
戦後活躍する画家たちは、人間の感情や人生観の今日的な解釈をもとに、物語や歴史に取材した作品を描きました。古典芸能、古典文学に精通した森田曠平[もりた・こうへい]による《蘆刈》には、ストーリーに画家自らのイメージが重ねられ、演劇の舞台を観るような幻想的風景が描かれています。