木村伊兵衛の写真 昭和10―20年代 Photographs of Kimura Ihee, 1935-1954

 木村伊兵衛(きむら・いへえ)(1901-1974)は、昭和の時代を代表する写真家の一人です。木村は、戦前・戦後を通じ、庶民の暮らしの風景を、いきいきと写しとりました。とくに自分の生まれ故郷である東京の魅力ある姿を、生涯にわたって撮りづつける一方、1952年(昭和27)に秋田を訪れ、農村の労働や生活の実状を「今生きている現実の縮図」としてとらえたドキュメンタリーに取り組むなど、日本の風土と人間を多角的に記録しています。
 木村は人物の撮影に際して、「被写人物に被撮影意識を持たせないように努力することが肝要」と述べています。この言葉は、小型カメラ「ライカ」を自在に駆使することにかけては「名人」とうたわれた、彼の写真の特徴をよくあらわしています。木村は、有名無名を問わず、被写体となる人物のかざらない自然な魅力を引き出すことで、肖像写真家として大きな足跡を残しました。
 木村の数ある仕事の中で、歌舞伎などの舞台に登場する役者に取材した写真も、定評のあるところです。とくに歌舞伎役者の六代目菊五郎を追った仕事では、名優の一瞬の動きを絶妙のタイミングで切りとっています。
 今回の展示では、日本の敗戦をはさんだ20年間、昭和10年代と20年代の写真に焦点を当て、この時期に撮影されたさまざまなテーマからなる木村伊兵衛の代表作を紹介します。

フェリーチェ・ベアト《東海道の風景、リチャードソン氏殺害の現場》 木村伊兵衛(明治34-昭和49)
《六代目菊五郎 娘道成寺》
昭和11(昭和59年頃のプリント?
KIMURA Ihee (1901-1974)
Onoe Kikugoro VI, in "Musume Dojoji"
1936 (ca.1984 Print)
gelatin-silver print