展示室2 / 新しい視線―開国と風景表現

ペリー艦隊来航を機に、200年あまり続いた鎖国体制を解いた日本。さまざまな国からの来訪者には、画家や写真家も多く含まれていました。そのひとりチャールズ・ワーグマンは、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』の特派員兼画家として1861年に来日し、記事と挿絵を本国に送るかたわら、油彩や水彩で、土地の様子を正確に描いた風景画や日本の風俗を克明に記録する絵を制作しました。このワーグマンに学んだ高橋由一[たかはし・ゆいち]と五姓田義松[ごせだ・よしまつ]は、西洋絵画の技法とともに、身近な事物を冷静に観察する姿勢を身につけていきます。これによって、日本の風景表現の幅は大きく広がることになりました。
1880年代後半にやってきた画家・版画家のモーティマー・メンペスや風景画家アルフレッド・イーストは、数ヶ月の滞在期間に日本各地を訪れました。メンペスの版画では、細かい線によって明暗の諧調が豊かに表現されています。イーストは、水彩に特有の淡い色の塗り重ねと繊細なグラデーションを活かし、雨に煙る遠景や風に揺れる木々を生き生きと描いています。
西洋絵画の写実性や、水彩の微妙な色調を多色木版の手法にとりこんだのが小林清親[こばやし・きよちか]です。西洋遠近法を用いた奥行きのある画面に、時刻や天候によって変わる光のニュアンス、月やガス灯が宵闇に織りなす光と陰の対照が鮮やかに表現されています。清親が描く新都・東京は、浮世絵の名所図会の形式を踏まえながら、開国後の新しい視線による風景画を実現しています。

小林清親《日本橋夜》
小林清親(弘化4-大正4)
《日本橋夜》
明治14年
多色木版
KOBAYASHI Kiyochika (1847-1915)
Nihonbashi Bridge at Night
1881
color woodblock print

出品リスト

新しい視線―開国と風景表現
作家名 作品名 制作年 技法・材質 備考
チャールズ・ワーグマン 室内 1873
(明治6)
水彩、紙  
チャールズ・ワーグマン 舟遊び 1876
(明治9)
水彩、紙  
チャールズ・ワーグマン 御茶漬屋 制作年不詳 水彩、紙  
チャールズ・ワーグマン 日傘の女 制作年不詳 油彩、カンヴァス  
ウィンクワース・アルバン・ゲイ 知恩院 制作年不詳 油彩、カンヴァス  
ジョルジュ・フェルディナン・ビゴー 漁夫 制作年不詳 油彩、カンヴァス  
モーティマー・メンペス 大阪、大運河 1887-88
(明治20-21)頃
エッチング  
モーティマー・メンペス 長崎、橋の下 1887-88
(明治20-21)頃
エッチング  
モーティマー・メンペス 京都、竹の橋 1887-88
(明治20-21)頃
エッチング  
モーティマー・メンペス 提灯の明かり、日本 1887-88
(明治20-21)頃
エッチング  
モーティマー・メンペス 寺前の露店 1887-88
(明治20-21)頃
エッチング  
アルフレッド・イースト お堂 1889
(明治22)
水彩、紙  
アルフレッド・イースト 木賀村(箱根) 1889
(明治22)
水彩、紙  
アルフレッド・イースト 日光 1889
(明治22)
水彩、紙  
アルフレッド・イースト 日光五重塔 1889
(明治22)
水彩、紙  
アルフレッド・イースト 長崎 1889
(明治22)
水彩、紙  
アルフレッド・イースト 東京の雨の日 制作年不詳 水彩、紙 坂田武雄氏寄贈
五姓田義松 或る神社図 制作年不詳 水彩、紙  
五姓田義松 井戸端で洗濯する婦人図 制作年不詳 水彩、紙  
五姓田義松 東京外神田 制作年不詳 水彩、紙  
五姓田義松 埼玉県熊谷駅 制作年不詳 水彩、紙  
渡辺文三郎 松島内雄島より二児島 1897
(明治30)
油彩、カンヴァス  
小林清親 東京新大橋雨中図 1876
(明治9)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 東京銀座日報社 1876
(明治9)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 高輪牛町朧月景 1879
(明治12)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 神田八雲神社暁 1880
(明治13)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 天王寺下衣川 1880
(明治13)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 両国花火之図 1880
(明治13)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 隅田川夜 1881
(明治14)
多色木版 加藤栄一氏寄贈
小林清親 日本橋夜 1881
(明治14)
多色木版 加藤栄一氏寄贈