収集のよろこび

 横浜美術館の所蔵作品を特徴づけるものとして、個性豊かな幾つかの個人コレクションがあります。今期の展示では、それぞれのコレクター像を探り、また、各コレクションを通して、人々を魅了する美術の力を探ります。

 コレクターが作品を収集するきっかけや関心のあり方は、実にさまざまです。日常生活の中で美と向き合う時間を求めて、画廊などで少しずつ作品を買い集めることを喜びとする人もいます。アーティストを支援する社会貢献の志から、コレクターとなる人もいるでしょう。あるいは、仕事の関係などで、気がつけばまとまったコレクションを持つことになった人もいます。

 横浜の実業家である坂田武雄(さかた・たけお)氏や松浦信太郎(まつうら・しんたろう)氏は、企業の創業者として多忙を極める中、美術作品の鑑賞と収集に情熱を注ぎました。彼らの系統だったコレクションは、長年にわたって磨かれた高い審美眼に貫かれています。同じく横浜の実業家の山口久像(やまぐち・きゅうぞう)氏は、地元の画家や工芸家を支援することに大きな喜びを見出しました。そのコレクションには、作家たちとの親しい交流によって直接収集された作品が多く含まれます。

 明治期の横浜の貿易商・陶業家であった綿野吉二(わたの・きちじ)氏は、陶工・宮川香山(みやがわ・こうざん)とも交流がありました。綿野氏の店に残された香山の陶磁器群は、戦時中も大切に保管され、当代の綿野家に受け継がれました。また、版画の刷り師である木村希八(きむら・きはち)氏の版画コレクションは、アーティストとの協働の成果として木村氏の手元に残されたものです。

 個人コレクションは、美術館に収蔵されることにより、広く人々に親しまれるようになります。コレクターの作品への想いや愛情は、美術館の中で、永く息づいていくといえるでしょう。当館では1982年の準備室開設以来、寄贈や市の文化基金による購入により、さまざまな個人コレクター旧蔵の優れた作品を収集してきました。これらは今日、1万点を超える当館所蔵作品の重要な一角を成しています。


《バルザックの頭部》

オーギュスト・ロダン
《バルザックの頭部》
1897年頃
ブロンズ
H.25.2×22.0×18.5cm
坂田武雄氏寄贈

Auguste RODIN
Head of Balzac
ca.1897
Bronze

《海岸の竜巻(エトルタ)》

ギュスターヴ・クールベ
《海岸の竜巻(エトルタ)》
1870年
油彩、カンヴァス
65.0×71.0cm
坂田武雄氏寄贈

Gustave COURBET
Une Trombe sur la Côte (Etretat)
1870
Oil on Canvas