写真展示室 / 現代の写真

1960年代に、アンディ・ウォーホルらポップ・アートの作家たちがグラフ雑誌など既存(きそん)のイメージを引用し、消費社会を痛烈(つうれつ)に批判した頃から、写真は現代美術にとって重要な技法のひとつとなっていきました。

シンディ・シャーマンは、1977年から制作された、仮想された映画のスティル写真連作を発表しました。《無題のフィルム・スティル No.23》は、往年(おうねん)のハリウッドB級映画を彷彿(ほうふつ)とさせるワンシーンの中で、彼女自身が女優に扮(ふん)して撮影されており、典型的な女性像がいかに空虚(くうきょ)なものであるかを風刺的(ふうしてき)に示しています。

リチャード・プリンスは、1970年代半ばより広告雑誌などに掲載されたイメージを写真を使って転写し、自らの作品に採り入れる制作を手がけはじめました。《無題》(1989年)は、男性誌のグラビアに掲載された女性の写真やイラストレーションがストレートに引用された作品であり、オリジナル作品を礼賛(らいさん)する権威的(けんいてき)な美術観への抵抗が示されています。

東西冷戦構造が崩壊(ほうかい)した直後の90年代に入ると、写真作品のひとつの傾向として、個人的な視点が重視されるようになりました。荒木経惟(あらき・のぶよし)やマーティン・パーは、過ぎ去っていく日常に眼を向け、私的な視点から社会を捉えようとしています。一方で、磯田智子(いそだ・ともこ)は、非常に冷静な視線をもって日常の断片を観察し、どこにでもありそうな街角(まちかど)を切り取ることで、時代の空虚感(くうきょかん)を写し出しています。


シンディ・シャーマン
《無題のフィルム・スティル No.23》
1978年
Cindy SHERMAN
Untitled Film Still #23
1978
©Courtesy of the Artist and Metro Pictures Gallery


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