肖像写真は、写真が発明された直後の1840年代には、主要な写真のテーマとなりました。20世紀に入ると、モデルの個性を引き出すさまざまな試みがなされるようになりました。ここでは、日本の肖像写真が多様な展開を見せる、昭和戦前期から現代までの作品を紹介します。
木村伊兵衛(きむら・いへえ)は、1930年代はじめに、操作や持ち運びが容易になった小型カメラを入手し、東京の下町に生きる人々を撮りはじめました。カメラの前で構えることなく撮られた写真には、モデルの自然な表情が写し出されています。
林忠彦(はやし・ただひこ)は、終戦後、新聞やグラフ誌のために、文壇や芸能界で活躍する人々の肖像写真を多く撮影しました。新しい時代を象徴する人物の日常の姿を捉えた写真は、ふだん表に出ることのないモデルの素顔を伝えています。
秋山庄太郎(あきやま・しょうたろう)は、戦後まもなく女性を中心に肖像写真を撮りはじめ、それらは近年まで多くの雑誌の表紙を飾りました。背景を暗くし、人物を浮かび上がらせてモデルの個性を強調した秋山作品は、新しいスタイルの肖像写真を確立しました。 |