《燃える椅子》2013年/ビデオ(部分)

展覧会概要

絵画 / 映像 ―「越境」のアーティスト、初の大規模個展

スクリーンに映し出されたまっさらな壁や紙の上に、植物のように伸びていく線。その線は渦となって画面を覆いつくし、さまざまに様態を変え、また消えてゆきます。 石田尚志(いしだ・たかし)は、絵画制作のプロセスである「絵を描く」という行為そのものに着目し、それを映像メディアによって作品化します。

多くの作品で石田が用いるのは、「ドローイング・アニメーション」という手法です。抽象的な線を少しずつ描いてはコマ単位で撮影するという行為を反復して、「動く絵(ムーヴィング・ピクチャー)」を創り上げます。 映像のなかで描かれ続ける、終わりのない絵画。その制作過程は、目に見える、あるいは見えないさまざまな要素との対話の軌跡でもあります。テーブルや椅子、傍らの窓から差し込む陽光の移ろい、描き続ける作家自身の身体、そして制作現場に響いていた音や音楽。膨大な画像の編集作業を経て、再び映像としての「時間」を獲得した作品は、さながら線描で奏でられる音楽のようです。そこには、「絵が動く」という映像メディアが生まれながらにもつ視覚的魅惑が凝縮されています。

この展覧会は、昨今、現代美術および映像の領域で大きな注目を集める石田尚志にとって初めてとなる大規模な個展です。過去20年間の代表作に新作の映像インスタレーションを加え、パフォーマンスや上映会などの多彩な関連イベントも交えてその創作活動を俯瞰します。絵画、映像、音楽、身体表現など異なる表現形式を往還する、独創性に富んだ石田の芸術の魅力をご堪能ください。

※巡回:2015年9月18日(金)~10月25日(日)(予定)沖縄県立博物館・美術館

展示構成

  • 《海の壁-生成する庭》2007年/3面ビデオインスタレーション(東京都現代美術館での展示風景、2011年)
  • 《燃える椅子》2013年/ビデオ
  • 《海の壁-生成する庭》制作風景(横浜美術館、2006年)
  • 《光の落ちる場所》(仮題)2015年/ビデオ
  • 《色の波の絵巻》2010年/ビデオ
  • 《フーガの技法》(原画)2001年/インク・鉛筆、紙

第1章 絵巻

巻物状の紙に少しずつ線を描いてはコマ撮りする、という作業の反復によって、独特の渦まくような描線が増殖する映像が生み出されます。絵画と映像の融合=「動く絵」をこの上なくシンプルに体現するこのシリーズは、石田の映像作品の原型です。作家が20年来、折にふれては手がけてきた「絵巻」の数々を展示します。

第2章 音楽

抽象的形態がリズミカルに踊り反復する石田の作品は、さながら線描で奏でられる音楽のようです。その映像作品のいくつかは、具体的な楽曲をモチーフとして制作されています。J.S.バッハの曲を映像に翻案した石田の代表作のひとつ《フーガの技法》(2001)に加え、映像制作の最初期にあたる作品も紹介します。

第3章 身体

作品制作と並行してライブペインティングの活動も展開してきた石田ですが、映像作品においては長らく自身の姿を画面から排除してきました。しかし近年、線描行為そのものを映像の中に取り込んだ作品が続々と生み出されています。自身の動きと描かれた線との関係性を前景化しようとする石田の新境地を紹介します。

第4章 部屋と窓

椅子や机、窓といったオブジェが配された室内を舞台に、壁や床へのドローイングが展開します。窓からの陽射し、あるいは火といったモチーフが線描と絡み合い、空間に光の渦が立ち現れます。複数の画面を並列するなど、近年一段と複雑化、大規模化しつつある「部屋」のシリーズを、複数の新作を含め展示します。