展示風景
ここでは人をモチーフとした多様な主題の作品をご紹介します。それらの人の表現には共通して、それぞれの作家がいかに日本画の伝統と向き合い、またそれを超克しようとどのような創意を取り入れたのか、というふたつの側面を読み取ることができます。
明治期に入ると西洋の文化や思想が日本に流入し、美術の分野においても、西洋の技術が輸入される一方、日本の文化的特性を活かした西洋に比肩しうる美術の創出が、国家レベルで推進されました。近代日本画もそのような時代背景のもとに誕生します。こうした中、岡倉天心に指導を受けた日本美術院の画家たちは、伝統的な主題に新たな解釈を加えた歴史画や道釈画、文学に取材した作品を多く描き、日本画の大きな流れを形成してゆきました。
日本美術院の画家である安田靫彦(やすだ・ゆきひこ)は、世阿弥作の謡曲に取材した《松風》において、月夜に汐汲みから帰った海女の姉妹の表情や仕草の写実的な描写により、人物の内面性にも迫っています。また今村紫紅(いまむら・しこう)も、国粋主義や民族主義が高まる時流の中、あえて逆臣の典型である平将門を描くなど、独創性に富む表現で歴史画の新生面を切り開きました。
学生時代に雑誌『白樺』を通じ西洋美術に親しんだ小倉遊亀(おぐら・ゆき)は、靫彦に入門した後、女性初の日本美術院同人となります。戦後に描いた《良夜》では、人体を大胆にデフォルメし、日本画の伝統的な技法と西洋美術に学んだ構成をひとつの画面に融合させています。