風俗画 Genre Painting

 人びとの日常生活のしきたりや様相を描く風俗画が、日本の絵画ジャンルとして成立したのは、16世紀、桃山時代といわれています。この時代には、京都の名所や年中行事が一望のもとに描かれた洛中洛外図や、特定の情景を主題とする遊楽図や祭礼図といった、近世初期風俗画が生まれました。江戸時代になると、初期風俗画をもととする浮世絵が隆盛し、美人画や役者絵が描かれるようになりました。近代以降も、この伝統は受け継がれ、当代の世相や風俗を題材とする作品が描かれています。
 山村耕花(やまむら・こうか)は、大正・昭和初期の時代の流行をいち早く捉え、新しい主題を大胆な構図で描き、風俗画における新境地を開きました。《婦女愛禽図》では、「耳隠し」の髪型に結った当時の現代女性の、凛とした姿が描き出されています。耕花に師事した中島清之(なかじま・きよし)は、身近な暮らしのなかにみる風俗に題材を得ています。《椿笑園の主人たち》には、椿愛好家の邸宅における、ゆったりとした時の流れが描かれています。
 森田曠平(もりた・こうへい)は、文学や歴史に想を得た物語絵や風俗画を描きました。《渡来図》は、北原白秋(きたはら・はくしゅう)の『邪宗門』や木下杢太郎(きのした・もくたろう)の『天草組』といった詩集を愛読するなかから生まれた作品です。さらに森田は、ポルトガルでの取材旅行を踏まえて制作し、南蛮趣味をいっそうリアルなものにしています。

風俗画_山村耕花・左 風俗画_山村耕花・右
山村耕花(明治18-昭和17)
《婦女愛禽図》
大正14
紙本着色、2曲屏風1双
山村行輝氏寄贈
YAMAMURA Koka (1885-1942)
Bird Lovers
1925
color on silk, a pair of twofold screens
ift from Mr. YAMAMURA Yukiteru