斎藤義重 Saito Yoshishige

斎藤義重[さいとう・よししげ]は、戦後の日本を代表する造形作家のひとりです。大正から昭和初期、当時さかんに移入されたヨーロッパの前衛美術、とりわけダダと構成主義を手がかりに自身の表現を模索していきました。レリーフ状の作品を二科展に出品しようとしたところ、絵画部・彫刻部のいずれでも受け付けてもらえず、やむなくもち帰ったというエピソードが伝えるように、戦前から、既成のジャンル分けではとらえきれない作品によって異彩をはなっていました。戦時体制下では沈黙を余儀なくされ、終戦直後も健康上の理由で制作を中断しますが、戦後になって内外の評価が高まります。そして彼の教室からは、1970年前後に登場する「もの派」を筆頭に、すぐれた現代作家が輩出しました。

その作品の特徴に、ほとんどが木を素材にしていることがあげられます。《トロウッド》は、二次元のイリュージョンではなく、現実の板の厚みが作品の主軸となっています。ラッカーで丁寧に塗装された板の表面は素材感を失い、私たちが知覚できるのは、色そのものと板と板の重なりに限定されます。1960年代前半に集中して取り組んだ電動ドリルで合板に点や線を刻み絵具を塗りこめる作品では、板面を刻む行為と、その痕跡としての傷が主題となっています。晩年は、黒のラッカーで塗装した板を床上や壁面に組み上げる作品を制作しました。そのひとつ《内部》は、板材が多様に重なりあい、個々の部分の対応関係によって緊張感がみなぎっています。

斎藤義重《内部》

斎藤義重(1904-2001)
《内部》
昭和56年
ラッカー、木、ボルト、紐
SAITO Yoshishige (1904-2001)
Inside
1981
lacquer, wood, bolt, and rope