この展覧会は、現在、その活動が最も注目される画家のひとり、松井冬子(まつい・ふゆこ)の、公立美術館における初の大規模な個展です。
横浜美術館では、2006年に「日本×画展 しょく発する6人」において、日本の古典絵画が受け継いできた美意識や主題、様式、技法などのうち、近代になって「日本画」の概念が成立する過程で捨て去られたものに、新たな価値や創作のてがかりを見いだし制作にとりくむ若手のひとりとして松井冬子をとり上げました。
松井冬子(1974年静岡県森町出身)は、油彩画を学んだのち、日本の古典絵画の技法に、表現上の魅力と可能性を見いだし、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻に入学しました。同大の学部卒業制作《世界中の子と友達になれる》は、芸術表現が呼び起こす精神的肉体的な「痛み」を始点として、恐怖、狂気、ナルシシズム、性、生と死などをテーマに挑発的とも言える作品を制作してきた松井冬子の原点と言える作品です。
本展では、代表的な本画の作品、試行錯誤の軌跡を伝える下絵、厳密に描き込んだデッサンなどに、本展のための新作を加えた約100点によって、松井冬子の全貌をご覧いただき、《世界中の子と友達になれる》ーこの出発点から、松井冬子がどのように自らの表現を突き詰めて来たかを検証します。また、2010年にフランスで発表し、今回、日本において初公開となる作品のひとつ《喪の寄り道》や、《体の捨て場所》をはじめ本展に向けて制作された最新作は、今後の創作活動の方向性を示唆することでしょう。
一方、本展会期中、松井冬子が初めてアートディレクションを手がける映像作品を公開する予定です(2012年3月)。松井冬子の美意識が、映像という新たな表現領域においてどう発揮されるか、是非ご期待ください。