みどころ・展示構成

1. 各館が誇る珠玉の20世紀西洋美術コレクションが一堂に!

ピカソをはじめとするモダン・マスターから、ウォーホル、リヒターら第二次世界大戦以降の現代アートの巨匠にいたる約70作家の名品が集結。多様性に富み、高い水準を誇るこれらの作品が日本の地方美術館の所蔵品であることは、あらためて思えば驚くべきことではないでしょうか。
本展では、その作品群を通じて20世紀西洋美術の流れを一望することにより、日本の公立美術館の底力(そこぢから)を実感いただくとともに、このような西洋の美術遺産が日本に蓄積されていった歴史経緯も振り返ります。

2. トライアローグって?

タイトル「トライアローグ」は、3者による話し合い(鼎談・ていだん)を意味します。各地域を代表する公立美術館3館が共同企画する本展では、各館の学芸員が長い時間をかけ話し合いを重ねることで、それぞれのコレクションを有機的に接続し、欧米の20世紀美術を概観するためのラインナップを紡ぎあげていきました。このタイトルにちなみ、本展では「3」という数字をキーワードとして、展示構成を「3章立て」「30年区切り」で展開します。

3. 3館共同企画ならではの視点

3館のコレクションを持ち寄ると、互いの相違と共通性とが浮かび上がります。それぞれのコレクションの厚みのある部分は前面に押し出し、手薄な部分は補い合う――各館のコレクションの重点を置く時代・地域のバランスが異なるからこそ、本展の充実した展示構成が可能となりました。また一方で、3館のコレクションに共通して含まれる作家たちにも注目。「Artist in Focus」と題し、各館所蔵作「三つ巴(どもえ)」の比較検証展示を通じて、その作家と、各館のコレクションへの深い理解をうながします。

パウル・クレー《攻撃の物質、精神と象徴》
1922年
水彩・油彩転写、紙
33.3×47.5cm
横浜美術館蔵

パウル・クレー《女の館》
1921年
油彩、厚紙
41.7×52.3cm
愛知県美術館蔵

パウル・クレー《レールの上のパレード》
1923年
油彩転写、紙
22.7×31.5cm
富山県美術館蔵

本展では、20世紀の西洋美術の展開を以下の3章(各30年スパン)に区切り、
横浜美術館・愛知県美術館・ 富山県美術館が所蔵する絵画、版画、写真、彫刻、映像から厳選した作品をご覧いただきます。

第I章 1900sーー アートの地殻変動

西洋美術の20世紀は、さまざまなアヴァンギャルド運動の台頭で幕を開けます。前時代の印象主義、ポスト印象主義の実験精神を受け継いだ芸術家たちは、彼ら先達の芸術的達成を乗り越えるべく、多様な流派=イズムのもとでさらに新しい表現を模索していきます。
本章で取り上げるのは、世紀初頭に興ったキュビスム、フォーヴィスム、表現主義を皮切りに、1910年代前半にヨーロッパで同時多発的に誕生した抽象芸術、第一次世界大戦前後に隆盛した構成主義やダダに至る、20世紀最初の30年の動向です。そうした前衛主義の反動としての古典回帰的な傾向や、フランスやドイツ以外の国々の芸術家たちの独創的な創作活動も交えて、アートの概念や価値基準が激しく揺さぶられ、刷新されていったこの時代を概観します。
3館のコレクションには、この時期を代表する芸術家の重要な作品が多く含まれますが、その象徴的作家が、キュビスムの実験を通じて20世紀美術に決定的な影響を与えたパブロ・ピカソです。各館の所蔵するピカソの描いた女性像は、それぞれのコレクションの文字通り「顔」といえる存在です。

主な出品作家

  • パブロ・ピカソ
  • ジョルジュ・ブラック
  • フェルナン・レジェ
  • アンリ・マティス
  • アメデオ・モディリアーニ
  • エドヴァルド・ムンク
  • バルテュス
  • オットー・ディックス
  • エミール・ノルデ
  • ヴァシリィ・カンディンスキー
  • パウル・クレー
  • ハンス(ジャン)・アルプ
  • マルク・シャガール ほか
  • ※予定

アンリ・マティス《待つ》
1921-22年
油彩、カンヴァス
61.0×50.0cm
愛知県美術館蔵

ヴァシリィ・カンディンスキー《網の中の赤》
1927年
油彩、厚紙
61.0×49.0cm
横浜美術館蔵

第II章 1930sーー アートの磁場転換

既成の価値観や理性を否定したダダの運動はほどなく、両大戦間のヨーロッパにおける一大潮流・シュルレアリスムへと展開します。夢、無意識、偶然性などを介して、人の内にある真のリアリティを開示しようとしたこの芸術思潮は、文学をはじめあらゆる分野の芸術家を巻き込み、国際的な運動へと発展していきました。またそれに続く第二次世界大戦の時期、シュルレアリストを含む多くの芸術家がヨーロッパからアメリカへ亡命したことをひとつの契機として、抽象表現主義をはじめとする新しいムーブメントがニューヨークで巻き起こります。
本章では、この大戦後におけるアメリカの台頭までを射程に収め、旧来のヨーロッパ中心の勢力図から脱却し、世界各地の芸術家、芸術運動が相互に影響を与えあう時代に突入する世紀半ばの30年の動向を俯瞰します。
ここで紹介する作家のうち、とりわけシュルレアリスムの芸術家たちの絵画や彫刻は、3館それぞれのコレクションの核をなすものです。エルンストやミロ、デルヴォーら3館が共通して所蔵する作家の重要作が顔をそろえ、展覧会のハイライトを形作ります。

主な出品作家

  • マックス・エルンスト
  • マン・レイ
  • ジュアン・ミロ
  • サルバドール・ダリ
  • ルネ・マグリット
  • ポール・デルヴォー
  • ジョゼフ・コーネル
  • アレクサンダー・カルダー
  • アルベルト・ジャコメッティ
  • ジャクソン・ポロック
  • モーリス・ルイス
  • サム・フランシス ほか
  • ※予定

ルネ・マグリット《王様の美術館》
1966年
油彩、カンヴァス
130.0×89.0 cm
横浜美術館蔵

ジャクソン・ポロック《無題》
1946年
油彩・エナメル・新聞紙コラージュ、板
60.5×48.0 cm
富山県美術館蔵

第III章 1960sーー アートの多元化

抽象表現主義で華々しく幕を開けた第二次世界大戦後の美術は、後続する芸術家たちによって次々と刷新されていきます。日常的なモチーフをアートに取り込んだネオダダの芸術は、大量生産やマスメディアを主題としたポップアートへと受け継がれ、60年代アメリカのアートシーンを席巻しました。その一方で、表現要素を極限までそぎ落としていくミニマルアートも生まれ、その流れは、作品自体よりもアイデアや表現意図といった観念性に重きを置くコンセプチュアルアートや、行為性を前面に押し出した芸術表現へと展開します。
本章では、表現対象や手法が多様化するのみならず、アートの考え方そのものが無数に分岐し、もはやいくつかの流派や傾向では包括しえない時代へと至る、世紀後半の芸術動向を振り返ります。
3館が1970〜80年代に収集活動を開始した当時、本章で紹介する作品の多くはまさに、同時代の美術でした。戦後美術の収集に力点を置く富山県美術館をはじめとする各館が、作品の価値が定まっていないゆえにとかく困難を伴うその「現代美術」の収集にあたってきました。今日ではそれらの多くが、国際的に高い評価を得るに至っています。

主な出品作家

  • イヴ・クライン
  • ルーチョ・フォンタナ
  • フランク・ステラ
  • ロバート・ラウシェンバーグ
  • ジム・ダイン
  • リチャード・ハミルトン
  • ロイ・リキテンスタイン
  • アンディ・ウォーホル
  • ルイーズ・ニーヴェルソン
  • フランシス・ベーコン
  • クリスチャン・ボルタンスキー
  • クリスト
  • ゲルハルト・リヒター
  • ジョージ・シーガル ほか
  • ※予定

イヴ・クライン《肖像レリーフ アルマン》
1962年(原型制作)
ブロンズに彩色、板に金箔
178.0×94.0×33.0 cm
愛知県美術館蔵


ゲルハルト・リヒター《オランジェリー》

1982年
油彩、カンヴァス
260.0×400.0 cm
富山県美術館蔵
© Gerhard Richter 2020(08052020)

撮影:笠木靖之

横浜美術館 Yokohama Museum of Art

1989年春に横浜博覧会のパビリオンとしてオープンし、そののち11月に正式開館。建築は丹下健三。
国際的な港町・横浜にふさわしい美術館として、「開港以降の国内外の美術」を対象に収集を重ねてきました。西洋画、日本洋画、日本画、版画、写真、彫刻、工芸など多岐にわたる収蔵品は現在、約1万3千点にのぼります。その半数近くを占める欧米の作家の作品群のうち、当館が最も重点を置いてきたのが第一次・第二次世界大戦間の前衛美術です。また「写真」を収集の柱のひとつに位置づけているのも当館の大きな特色で、19世紀から現代にいたる4,300点を超える写真作品が所蔵されています。
国内の美術についても、横山大観や下村観山ら日本美術院の画家たちを中心とした日本画、明治期以降の版画のコレクションは、質量ともに充実しています。

横浜美術館ウェブサイトへ

撮影:笠木靖之

担当学芸員より

西洋美術の収蔵品の中心を占める両大戦間美術のうち、最大の見どころはなんといっても、エルンスト、ダリ、ミロ、マグリット、デルヴォーらシュルレアリスムの作家の作品群です。本展を通して、その水準の高さと個々の作品の魅力を再確認してください。(松永真太郎/横浜美術館)

愛知県美術館 Aichi Prefectural Museum of Art

1992年、複合的な文化施設である愛知芸術文化センター内に開館。前身である愛知県文化会館美術館(1955年開館)のコレクションを引き継ぎつつ、20世紀の優れた国内外の作品を中心に、コレクションを拡充してきました。
なかでも欧米美術では、ピカソやクリムトの代表的作品にはじまり、マティスやボナール、さらに戦後アメリカで活躍したルイスやウォーホルなど、多様な美術動向を辿ることのできる質の高いコレクションを擁しています。また、キルヒナーやノルデ、レームブルックなどの20世紀初頭のドイツ表現主義の絵画や彫刻群は、国内では異色のコレクションと言えます。
さらに、日本近世・近代の絵画や茶道具、仏教美術、書、考古遺物などで構成される「木村定三コレクション」や、身体をキーワードに毎年制作しているオリジナル映像作品など、個性的なコレクションが加わったことで、いまや20世紀美術に留まらず、古今東西にまたがる総合美術館としての役割を担っています。

愛知県美術館ウェブサイトへ

担当学芸員より

古株の作品も良いですが、レジェやムンク、バルテュスなど、2010年代以降新たにコレクションに加わった作品にもご注目。値上がりと購入資金減でどの館も欧米美術のコレクション拡充が難しい昨今、寄附や寄贈のおかげで展示の幅をぐんと拡げられています。(副田一穂/愛知県美術館)

富山県美術館 Toyama Prefectural Museum of Art and Design

2017年、富山県立近代美術館(1981年開館)の収蔵品を引き継ぐかたちで、内藤廣設計による建築と新しい館名のもと、富山駅北の富岩運河環水公園内に移転オープンしました。
ピカソ、シャガール、ミロ、デュシャン、ポロック、ウォーホル、ベーコンらによる欧米の美術をはじめ、20世紀初頭以降の美術の流れを「世界・日本・富山」の3つの視点から展望するコレクションを擁しています。とりわけパブロ・ピカソの長い画業の各時期にまたがる絵画群、第二次世界大戦後の美術は国内屈指の充実度といえるでしょう。
館名の英語表記にあるようにポスターや椅子を中心とするデザイン・コレクションも大きな特徴で、美術館の屋上庭園として設けられた「オノマトペの屋上」は、「アートとデザインをつなぐ」というコンセプトを象徴しています。また、富山市出身の詩人・美術評論家の瀧口修造と、富山で晩年を過ごした世界的音楽家シモン・ゴールドベルク夫妻旧蔵のコレクションもあり、それぞれ専用の展示室で公開しています。

富山県美術館ウェブサイトへ

担当学芸員より

富山県美術館のコレクションでは、特に第二次世界大戦後のポップ・アートや、制作後間もない時期に収集されたベーコンやリヒターらの作品にご注目ください。「なぜこんな作品が富山に!?」と思うことうけあいです。(碓井麻央/富山県美術館))

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