このコーナーは、企画展「木下孝則展」(4月11日〜6月8日)と、6月よりはじまる「横浜フランス月間2008」に合わせた特集です。1920年代から30年代のフランス美術と、その頃フランスに滞在した日本人画家の作品を、同時代の写真をまじえて紹介します。
◆ 街角
《パリのプラタナス》
1938年 ゼラチン・シルバー・プリント
BRASSAÏ (1899-1984)
Platane, Paris 1938
gelatin-silver print
◆ 機械と人体
機械文明が急速に発展する1920年代は、機械と人間の境界に揺らぎも生じます。楽天的なまでに機械を讃美したレジェは、メカニックな美を人体に適用しようと考えました。《コンポジション》に登場する人間の頭部も、周囲にちらばる物体と等価に扱われ、無機質な機械の部品のようにさえ見えます。 フランスでレジェの教えを受けた川口軌外[かわぐち・きがい]の《作品》は、戦後になって制作されたものです。一度解体され、ふたたび組み立て直されたような人物の表現は、彼が滞仏期に目の当たりにしたであろうキュビスムやレジェの造形を彷彿とさせます。
◆ 女たち
《ヴェールをして座るキキ》
1922年(後年のプリント)ゼラチン・シルバー・プリント
Man RAY (1890-1976)
Kiki assise à la voilette 1922 (New Print)
gelatin-silver print
◆ 長谷川潔のフランス
横浜生まれの長谷川は、1919年に28歳でフランスに渡ってから、一度も帰国することなく彼の地で活動を続けました。銅版画の技法を駆使し、フランスのさまざまな地方を描いた長谷川ですが、1920年代後半から30年代前半にかけて、工場の煙突、飛行船や飛行機など、産業や科学技術の発展をうかがわせる景観をとりあげています。空が画面を大きく占めるこれらのモチーフは、この時期の作品に頻出する雲の表現——水平線の重なりによる表現——を探求するうえでも、版画家の関心を強くひくものであったと思われます。
《エッフェル塔と雲》
1933年(昭和8)エングレーヴィング、鉛筆
HASEGAWA Kiyoshi (1891-1980)
The Eiffel Tower and Clounds 1933
engraving and pencil on paper
◆ ロバート・キャパのパリ
1929年のニューヨークに端を発した世界恐慌から1933年のヒトラー政権の樹立などを経て、1930年代も後半になると、ヨーロッパはふたたび不穏な気配に覆われはじめます。キャパのカメラは、戦場という特殊な場だけではなく、日常の一瞬にも鬱屈した時代の空気を見出しています。同時にそこには、ささやかな幸福を慈しんで生きる人びとへの、暖かい視線が感じられます。悲しみと喜びと、両者が交錯する世界のありようを鋭く捉えるキャパの写真は、揺るぎないリアリティーをもって私たちに迫ってきます。
《パリ、1936年頃》
1936年頃 ゼラチン・シルバー・プリント
Robert CAPA (1913-1954)
Paris, ca.1936
gelatin-silver print