横浜市立篠原中学校に出張し、アーティストの千葉大二郎(硬軟)さんを講師に迎えて2023年2月に授業をおこないました。テーマは「『衝撃』から生まれる表現」。
その授業の様子をレポートします。
なにやら足の大きな不思議な生物が体育館で寝ています。謎の生物を横目に続々と生徒が授業の会場である体育館に集まってきます。
授業開始のチャイムとともに不思議な生物は体育館の舞台袖に姿を消し、講師の千葉大二郎さんが登場しました。
千葉さんは、小さいころから漫画が好きで、漫画家になりたいと思い美術大学の日本画科に進学。大学で様々な表現の面白さに気づき、目的によって活動名を使い分けながら現代美術作家としてユニークな作品を作り続けています。
意外な2つのものを掛け合わせると不思議な魅力が出るという意味の俳句用語「二物衝撃」に倣い、作品を制作しているとお話されました。
意外な2つのものの組み合わせとして「未確認生物×画家」をテーマとしている作品の紹介がありました。ゴッホの毛や、マンモスの毛がありがたがられることと、日本画壇の状況が類似していることや、猿や象が絵を描いたときに作品の権利は誰にあるのかということに興味を抱き、未確認生物であるビッグフットを捕獲して彼に絵を描いてもらうことにしたそうです。
千葉さんは、再度体育館の舞台袖に退場し、「ビッグフットー!」と生徒が呼ぶ声に反応して、初めに体育館に横たわっていた不思議な生物が勢いよく登場しました!絵具が入った容器を器用に開け、足で絵を描き始めます。
篠原中の3年生240名が見つめる中、大きな音を立てながらダイナミックに絵を描く様子は圧巻で、生徒からは歓声が上がっていました。
途中でビッグフットがカメラを取り出し、自分の事を見ている生徒の写真を撮ったり、自撮りもしていました。
しばらくすると絵を描くことに満足したのか、役割を果たしたのか、ビッグフットは帰っていき、再度千葉さんが現れました。
ビッグフットのパフォーマンスは、雪舟が幼いころ和尚に叱られ、柱に縛られた際に足を使って涙で絵を描いた逸話や、白髪一雄が天井から吊り下げたロープにつかまって足で絵を描いたことを参考にしているそうです。
「税」と言う文字を凧に書き、凧あげをする《税を上げる》という作品では、社会的な事象(この時は消費税の引き上げ)に対する不満を直接的に表現するのでなく、洒落のように作品に昇華している話や、「速記美術運動」という活動では、速記にまつわる文化や歴史と速記文字の造形的な魅力に着目し、長期的な視点で作品を制作しているという話がありました。
生徒の感想
- 二物衝撃がとても印象に残った。美術や俳句だけでなく、日常にも生かしていきたいと思った。
- ビックフットがすごく面白くて笑いが止まりませんでした。
- 私は美術というと、絵をかいたり作品を静かにつくっているイメージがあったから今回の講演を聴いて、美術の見方が変わった。(中略)千葉さんがかいている作品と、ビッグフットさんがかいている作品は全く似ていなくておもしろいと思った。
- 千葉さんは作品を作る中で表現の方法をたくさん試す実験をしているのだと思った。作る者が変わると作品はどう変わるのか、作る場所が変わると作品はどう変わるのか、ずっと考えているのだろうなと、お話を聞く中で感じた。また、美しさとはそもそも何だろうと考え続けているのだろうと感じた。
千葉さんは、ユニークな発想で多くの作品を制作しています。思い付きやアイデアを信じてまずは行動し、あとからそのアイデアが正しかったのか答え合わせをしているとお話されました。その行動力と自分の直感を信じるスタンスは、中学生に響くものがあったのではないでしょうか。
学校にビッグフットという異物が入りこむことで、日常の空間がいつもとは違う空間になりました。「学校×アーティスト」の二物衝撃は、生徒やアーティスト、先生、そして我々コーディネーターにとっても衝撃的な体験として強く刻まれたように思います。
講師:千葉大二郎(硬軟)(ちば・だいじろう(こうなん)) 1992年生まれ。2014年多摩美術大学日本画専攻卒業。2016年東京藝術大学大学院修了。2014年からプロジェクト「硬軟」を主宰。2022年「第25回岡本太郎現代芸術賞」で特別賞を受賞。主な展覧会に2022年「ART OSAKA Expanded」(クリエイティブセンター大阪)、「たえて日本画のなかりせば」(東京都美術館)など。DIY的作風で展示やパフォーマンスをおこない、美術の領域を広げている。 |
(市民のアトリエ担当)
[横浜市芸術文化教育プラットフォーム 横浜市立篠原中学校 実施 2023/2/17(金)]