活動報告:「walking practice -ケアではない共存のためのトレーニング-」-横浜国立大学教育学部との連携

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2015年度より横浜国立大学教育学部の授業と連携して、近隣の高齢者施設に出向いたワークショップ等を実施してきました。2020年以降、新型コロナの影響や横浜美術館が休館に入った事により、高齢者施設への訪問ではない形で授業を行ってきました。

今年度は、自身も車椅子ユーザーであるアーティストの檜皮一彦(ひわ かずひこ)氏を講師に迎え、学生と一緒に、一般の方を対象としたプログラムの準備と実施を行いました。準備を含めた全3回にわたる活動を振り返ったブログを、有志の学生に執筆していただいたので以下掲載します。

*やどかりプログラム「walking practice -ケアではない共存のためのトレーニング-」内容

一般参加者10名が2組に分かれ、ランダムに選ばれた複数のルールに従い、マネキンの乗った電動車椅子(約40kg)を目的地まで運ぶというもの。学生がルールの考案や、当日のワークの進行とディスカッション(振り返り)のファシリテーション等をおこなった。檜皮氏が過去に実践してきた「walking practice」プロジェクトをベースとしている。


楽しく面白く車椅子を運べ!

1日目 10月4日 "ひわさん"というアーティストと一緒にワークショップをしましょう

2022104日、私たち横浜国立大学教育学部美術専攻3年の学生は、1115日に行われる横浜美術館仮拠点(PLOT 48)での「やどかりプログラム」「walking practice―ケアではない共存のためのトレーニングー」に向けて準備を始めました。

先生からメールでのお知らせだけを受けて大学の講義室に集まった私たち。しかし、授業開始時間になっても"ひわさん"はいらっしゃいません。しばらくして現れたのは横浜美術館の職員の方でした。

「ひわさんを迎えに行きましょう。」

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講義棟の外に出ると、木の影から姿を現したのは、今回のやどかりプログラムに講師として迎えられた、車椅子アーティストの檜皮一彦さんでした。

まさか、講師の方と屋外で対面するとは思ってもいなかったので、これから何をするのだろうというワクワクが強まっていきます。

とはいえ、外ではまともに今回のワークショップの説明も受けられないため、講義棟3階にある301室に向かいます。

けれども、困ったことにこの講義棟にはエレベーターがありません。私たちは力と知恵を絞り出して檜皮さんの乗ってきた電動車椅子を持ち上げ、狭い階段を登っていきます。

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「電動車椅子を手で運ぶ経験など今までしたことがなかった。」

「思っていた以上にしっかりと重みがあり、4人がかりでどうにかという感じだった。」

「階段しかないうちの講義棟の不便さを改めて感じた。」

車椅子を運んだ学生たちはそう語ります。まずは自分たちで車椅子を運ぶ体験を経て、今度はワークショップの参加者に車椅子を運んでもらう活動を考えます。

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2グループに分かれ、言語系のルールや、体を動かす系のルールなど、車椅子を楽しく運ぶための様々なルールと、その体験の記録方法を考えました。それぞれのグループの個性が出て、ルールを考えるだけでもワークショップとして成立しそうなほどでした。

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今回思いついた、複数のルールをブラッシュアップし、次回、1025日のやどかりプロジェクト準備に進んでいきます。

2日目 10月25日 学生ワーク

この日は私たち学生が、前回みんなで考えた「車椅子を運ぶときのルール」や「記録方法」を実際に試すためにPLOT48で車椅子を用いて、ワークを行いました。

まず、「車椅子を回転させ続ける」「階段禁止」という、くじで決まった2つのルールのもと、車椅子を隣の部屋まで運びました。

回転させながら運ぶためには、重い車椅子をずっと持ち上げ続けなければならず、大変でした。また、車椅子を回転させながら狭いスロープや廊下を通るのは至難の業で、「痛い」などの苦痛の声が学生から漏れていました...。

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やっと目的地に到着し、次のルールとゴール地点をくじで選びます。

次は「車椅子につけた鈴を鳴らさない」「反対の言葉を使う」「スロープ禁止」「車椅子を持ち上げない」という4つのルールで、少し離れた棟の2階まで運びました。

鈴は鳴らさないように気をつけても、少しの振動で鳴ってしまうため、点字ブロックの上を通るときなどは特に大きく鳴ってしまったように思います。

スロープ禁止や長い移動距離などの大変な条件ではありましたが、反対言葉でのコミュニケーションによって楽しく取り組めました。

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最後は、「水をこぼさない」「『あ』のみ発声できる」「車椅子を持ち続ける」「エレベーター禁止」のルールのもと、スタート地点に戻りました。

「水をこぼさない」ために、車椅子に乗っているマネキン「彼」の頭にバット(受け皿)とコップを載せ、そこに水を注ぎましたが、車椅子を置いた状態で既にコップは傾いており、持ち上げる際に、そして一歩ずつ進むたびにコップの水は運び手に容赦なく降りかかっていました。

また、「あ」のみではコミュニケーションは取りづらかったです。

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ワークの後は、1か月後に控えた、一般の参加者との「walking practice」本番のために、プログラムの流れや改善点について話し合いました。

「参加者に感じてほしいこと」としては、次のような項目が挙げられました。

・バリアフリーのありがたさ

・コミュニケーションが制限されていると思い通りにならないこと

・実際に人を乗せて運ぶ状況とのつながり

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次回は一般の方を迎えたプログラムということで、私たちはどきどきしながらPLOT48をあとにしたのでした。

3日目 11月15日 やどかりプログラム「walking practiceケアではない共存のためのトレーニング-」本番

少し肌寒い1115日、いよいよ一般参加者とのwalking practiceの本番の日がやってきました。

20代から60代まで10名の一般参加者が集まり、ワークショップが始まりました。

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まず、横浜美術館の職員からプログラムの主旨について説明があり、次に檜皮さんから、作品や活動についてのお話と、これから運ぶ電動車椅子の構造についての説明がありました。

その後、参加者と私たち学生がそれぞれ5名くらいずつ、計10名の2グループに分かれてワークを行いました。

自己紹介と簡単な準備体操を行い、それから車椅子ワークの「ルール」と「ゴール地点」をくじ引きで決めました。両グループとも、初対面にも関わらずお互いに声をかけあい、協力してゴール地点まで運んでいました。

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ルールやルートを変えながら、3~4回車椅子を運んだのち、2グループそれぞれで「大変だったこと」「気づいたこと」を共有しました。ここでも、学生・一般参加者にかかわらずたくさんの意見や感想を聞くことができました!

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最後はお互いのグループのディスカッションのまとめと、質疑応答や檜皮さんのお話で締めくくられました。

檜皮さんの「"車椅子を使用している"という特異な意味性が失効することを目指して作品をつくっている」という言葉がとても意味深く、印象的でした。

車椅子を運ぶだけでも貴重な体験ですが、それをゲームのように楽しいプログラムとして準備と実施に携わることができたこと、そして檜皮さんや横浜美術館スタッフの方々、一般参加の方々との交流から、私たち国大生は多くのことを学ぶことができました。

プロジェクトに参加させていただき、ありがとうございました!

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執筆者:横浜国立大学教育学部 河原林天珠(1日目) 倉島七海(23日目)

全3回の活動をまとめた記録動画を学生が作成してくれました。

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動画作成:横浜国立大学教育学部 小倉崚


さいごに

講師の檜皮氏が世界各地で実践している、「walking practice」というプロジェクトは、「ルールを設けて車椅子を運ぶ」という単純な構造ではあるが、様々な視点でこの体験を捉えることができます。1115日のディスカッションの際に出た参加者の感想をいくつか挙げると、

「〇〇の状況だと車椅子が通れるだけの幅がない」

「〇〇のルールだとコミュケーションが難しい」

「ルールを決めて生活すると楽しいかも」等々、

運搬のコツからバリアフリーの問題、意思疎通の難しさ、ルール設定による生活の変化まで多様な意見が出ました。

また、運搬時のルールを学生と検討している際に「多少難しい方が面白い」と檜皮氏からの助言があり、困難で理不尽なルールもいくつか設定しました。その結果、困難であればあるほど「コミュニケーション」や「工夫」によってルールを乗り越えようとする「創造性」が発揮される場面が、学生のワークやプログラム実施時にみられました。

「車椅子の方は必ずケアが必要だ」という固定観念をもつのではなく、ワークやディスカッションを通して「どうしたら楽しみながら困難を共に乗り越えられるか」という事について、参加者や学生、そして講師の檜皮氏と一緒に考える事ができました。

(市民のアトリエ担当)

[やどかりプログラム「walking practice -ケアではない共存のためのトレーニング-」 2022/11/15(火)14:0016:00