横浜吉田中学校での出張授業「ヒサさんと空想の街を描こう」

市民のアトリエは、横浜市立横浜吉田中学校に出張し、漫画家のヒサクニヒコさんを講師に迎えて2021年12月から2022年2月に全3回の授業をおこないました。
テーマは「ヒサさんと空想の街を描こう」。その授業の様子をレポートします。

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横浜吉田中学校は関内駅の近くに位置し、外国につながりをもつ生徒が約半数を占める多国籍・多文化な学校です。
今回の授業は3年生4クラスが対象のため、卒業記念になるような共同制作をおこなうことにしました。
講師には、横浜在住の漫画家のヒサクニヒコさんをお迎えしました。

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12月の初回の授業は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、放送形式で実施しました。
美術部の生徒20名ほどが放送室の隣の会議室に集まってヒサさんの講義を聞き、その様子をビデオカメラで撮影して各教室に生放送しました。

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ヒサさんには、これから生徒の皆さんが取り組むのと同じ画用紙、画材で絵を描くデモンストレーションをしていただきました。
描いているのは、ヒサさんが子どもの頃の横浜の様子です。
洋菓子店のおいしそうなケーキやドーナツを見ておなかをすかせるヒサ少年。
戦後、焼け跡に立ち並ぶ米軍のかまぼこ兵舎をフェンス越しにみつめるヒサ少年など。
プロの軽快な筆致にみんな目が釘付けです。

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「絵は上手、下手ではなく、自分が伝えたいことを相手にしっかりと伝えることが大切です。
紙の上は自由で、自分の表現を守ることができる。自由に描きましょう!」
と、制作に向けてヒサさんから強いメッセージがありました。

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授業後は、風景の描き方を質問した生徒に、ヒサさんが丁寧に答えてくれました。
美術部の生徒たちはヒサさんが描く様子を見るのが楽しくて、なかなか会議室を離れられない様子でした。

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翌週、2回目の授業は4クラス同時におこない、ヒサさんが順に4つの教室を回りました。
自分の好きな横浜の街の様子や、「こんなところがあったらいいな」という空想の街を描きます。
過去、現在、未来のいつを描くかは自由。風景の中に、必ず自分の姿を描き加えます。

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生徒たちは班に分かれ、クロームブックを使って調べものをしながら制作を進めます。
一人一台タブレットが配布され、自在に検索を進める現代っ子の様子にヒサさんはとても驚いた様子。
生徒の一人が「昔はどのようにしていたんですか?」と尋ねると
「昔の画家やイラストレーターは、お手製のスクラップブックを作って、普段からいろいろなイメージを集めていたんだよ」とヒサさんが答えます。

この日最後のヒサさんのコメントは
「今日までに制作が終わらなかった人も大丈夫。街はつくることもできるし、壊すことだってできるのです。怪獣を描いて街を壊してもいい!」
という予想もしなかったもの。作家の自由な発想に圧倒されつつも、明るい雰囲気でこの日の授業を終えました。

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後日、完成したそれぞれの作品を集め、美術部の皆さんが大きな絵巻物に仕上げてくれました。
海が川へとつながり、橋や駅、学校などがある街の中に、一人ひとりが描いた空想の街が散らばります。

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海辺のきれいな風景、部活で活躍する自分の姿、お菓子でいっぱいの街、憧れのドレスに身を包む自分、漫画だけの図書館、空飛ぶ乗り物、ほろ酔いで歩く飲み屋街、水の都、宇宙など、自由で個性豊かな街が連なります。
完成した作品は学校の中に展示して、自由に鑑賞できるようにしました。

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加えて、ヒサさんが絵巻物の中をツアーするように紹介する映像を収録し、体育館で上映しました。
当初は対面での鑑賞会を予定していましたが、受験と新型コロナウイルス感染症の拡大の時期に重なってしまったため、2月に上映会を実施しました。

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3年生の皆さんの感想の一部を紹介します。

  • みんなで一つの町を完成させることがたのしかった。自分の考えていることや、思っているものを絵で描くことがとても楽しくてもっとやりたいと思った。
  • 将来、こんな町がいいという自分の希望のような絵を描いて、将来が自分の思い描いていた町になっていたらいいなと思った。
  • ヒサさんの言ったように絵を書くにはうまいや下手がなく、一番大切なのは心をこめているかどうかで人の心に届く作品であること。今回の授業でそれができたと思います。自分が思ったことや感じたことを作品に表すことができました。
  • 自分が何を書こうか迷っているときにヒサさんが優しく丁寧にアドバイスしてくれたことがとても印象に残っています。「自分の自由でいいんだよ。好きに書いてみな。」と言われたことで、自分の絵に対する対抗心が消え、大胆に書いてみよう!と思うことができました。
  • 同じお題を出されても、描く人によって全くちがうものになるのがおもしろかったです。自分では思いつかないようなアイデアや、個性的な色づかいがあって、その人にしかつくれない作品なんだと強く感じました。
  • 他の人の絵を見ることで「あーこういう描き方もあるんだ」というアイディアをたくさんもらえたので絵のたのしさをすごく感じた授業でした!

ご担当の先生によると、生徒たちがとてもよい表情でいきいきとに制作に取り組んでいたということです。
普段の授業では課題や目標設定があるので、今回のように自由なテーマに取り組めることが皆さんとても楽しかったようです。

ヒサさんは、卒業が近づいた3年生に「自分の思いを表現で伝える」というとても大切なことを教えてくださいました。
卒業生たちがこのことを胸に、さらに大きな世界へと羽ばたいていくことを願っています。

(市民のアトリエ担当)

[横浜市芸術文化教育プラットフォーム 横浜市立横浜吉田中学校 実施 2021/12/10(金)・17(金)・2022/2/28(月)]