長島有里枝さんによる出張授業「ジェンダーフリーな制服をつくろう」

市民のアトリエは、横浜市立本郷中学校に出張し、写真家の長島有里枝(ながしま・ゆりえ)さんを講師に迎えて2022年1月から2月に全3回の授業をおこないました。
テーマは「ジェンダーフリーな制服をつくろう」。その授業の様子をレポートします。

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初日は、2年生全員が体育館に集合し、長島さんの講義を聞くところからスタートしました。
長島さんは中学生の頃、制服のスカートを履かなければならないこと、サッカー部に入れなかったことに強い違和感を覚え、初めて自分が「女である」ことを意識したと言います。
美大に進学して写真を学び、以降、セルフポートレートや、家族やジェンダーをテーマにした作品を発表しています。
近年では写真にとどまらず、他者との協働作業を経て、空間に展開する作品も発表しています。

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長島さんのお話はアートの歴史へと続きます。
「かつて美術は王様や教会のために存在していたけれど、大航海時代をむかえるとアーティストにお金を支払う人も少しずつ変わって、描かれる内容も変わっていきました。
また、戦争や革命が起きると、権力に対抗するような表現も生まれます。
現代ではきれいなものだけがアートではないし、それをつくるのもアーティストだけとは限りません。
社会と自分との関係について考えることが大切です。」

その後、各クラスに分かれて1時間ずつ4クラスの授業をおこないました。
まず今回のテーマ「ジェンダーフリー」について長島さんからお話がありました。
「性別は男と女の二つしかないものでしょうか? そんなことはなく、他人が決めることはできないものです。
性自認や性的指向などは人によって異なっていて、ジェンダーには多様性があります。
それを差別することがなくなり、みんなが受け入れられるような社会になってほしいと思います。
この授業を、身近なジェンダーという問題を通して、社会でどういうことが起きているのかを考える時間にしてほしいと思います。」

今回の授業では、制服に取り外し可能なデコレーションを施して「ジェンダーフリーな制服」づくりに挑戦します。
素材として様々な色の不織布や薄紙、リボン、毛糸、テープなどを用意しました。
最後には完成した制服を身に着け、ポートレートを撮影します。

制作の参考にするために、長島さんからは現代アートの事例(フェリックス・ゴンザレス=トレス、草間彌生など)や、ファッションの歴史の中でのジェンダーフリーな事例(ルイ14世が履いていたハイヒール、女性の社会進出を後押ししたココ・シャネルなど)の紹介がありました。
この日は各自デザイン画を描き、様々な素材を試すところまで作業を進めました。

1週間後、前回のデザイン画をもとに、各自制服のデコレーションのパーツ制作をおこないました。
この日は、担当の山田先生に授業を進めていただきました。

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さらに1週間後。この日はポートレート撮影に取り組みます。
iPadを使用し、原則として縦構図で、全身を撮影します。
長島さんは「どう写したら、自分が制服で表現したことが伝わるかを考えて」とアドバイスします。

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前回制作したパーツを制服に取り付けてから撮影を始めます。

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撮影の間はとてもにぎやかです。
お気に入りの場所を選んだり、ポーズを工夫したり、光の向きを意識したりしてお互いを撮影します。
最後に、一人ずつベストな一枚を選んで、この日の授業は終了しました。

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最終日は再び体育館に集合して完成したポートレートを鑑賞する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大状況から、各クラスに分かれての放送形式の授業に変更しました。
全員のポートレートをスライドショーで上映すると、みんな真剣に見入っていました。

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様々な色の花を制服や頭に身に着けたり、スカートをズボンのようにアレンジしたり。
ジェンダーフラッグの色を意識した模様、ジェンダーの差を感じさせないおしゃれなネクタイやリボンやマントもあれば、さらに自由で飛び抜けた表現もたくさん!
それぞれが解釈した「ジェンダーフリー」が色とりどりに表現された制服は、学校中が明るくなるような個性にあふれていました。

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完成したポートレートはプリントして、作者のコメントと共に教室の廊下に展示しました。
長島さんは、全ての写真をじっくりと見て、一人ひとりに丁寧なメッセージを返してくださいました。

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この授業を受けた生徒の皆さんからの感想の一部を紹介します。

  • 今回の授業を受けて、自分が元々持っていた考えや感じ方が変わった気がします。前よりももっとやわらかい脳みそになって色々な考えが浮かんできそうです。
  • 私も長島さんみたいに自分らしさを大切に、たくさんの考えをもって生きていきたいとすごく思いました。
  • 性差別がある時代だからこそ、友達の個性を知ったりその個性を認め合うことができました。ジェンダーのことをもっと知って理解したいと思える授業でした。
  • この授業のおかげで少し自分のいつもの服装に自信をもてました。
  • 自分の表現したいことを作品にすることは、とても大変です。でも、自分を表せたとき、とても楽しさを感じました。
  • 今回の授業をうけて男子、女子とかの色などが、なんとなくなくなった。11人の自由だっていうのがよくわかった。みんなちがってみんなステキ
  • (ジェンダーについて)本当の正解は分からないし、無いと思うけど自分なりのジェンダーについての考えができて、今まで男女のちがいで気付かないうちにきゅうくつに感じていたことが改善されて良かったです。
  • ジェンダーは難しいがいねんだと思いました。しかし、色を工夫して、ジェンダーフリーな制服を作ってみて、小さなことから、ジェンダーフリーにするのは、できるのだと思いました。
  • いつか、決まりきった制服がジェンダーフリーな制服に変わって、誰もが生きやすい、快適な学校になるといいなと思います。

1ヶ月にわたる授業を通して、生徒の皆さんの考え方や心の中に変化があったことが読み取れます。
社会課題や現代の表現についてやさしい言葉でお話してくださった長島さんと、それを真剣に受け止め、自分の表現にした生徒の皆さんに心からの拍手を送りたいと思います。

(市民のアトリエ担当)

[横浜市芸術文化教育プラットフォーム 横浜市立本郷中学校 実施 2022/1/24(月)・2/7(月)・22(火)]